ハーメルン
とある英霊の一方通行
満たされた杯

「────────」
時刻は夕方に差し掛かっていた。
外の景色はオレンジ色の光で満たされており、それは部屋の中にも入ってきている。感覚的には、あと数十分で辺りは夜に変わるだろう。
意外にも、一日という時間が過ぎるのは早いらしい。まあ、ほとんど寝ていたせいで早く感じるのだと思うが、大して気にする事もなかった。
「……つまンねェなァ」
一方通行はテレビを見ていた。
二度寝をしてから起きたのは一時を過ぎた頃。
寝過ぎて頭が痛くなったのと、腹が減ったという理由から居間に来たのだが、朝と違って居間には誰もおらず、というか家の何処にも人がいなかった。
勝手に冷蔵庫の中身を調べたが、料理に使うような食材ばかりで、そのまま食べて腹が満たされそうな物は何も無い。
こうなってしまうと、今の一方通行は所持金が一円も無いため、どうしようもなくなってしまう。せめて、缶コーヒーを買える程度の残高があって欲しいものだが、現実は常に残酷だ。
アホな事に衛宮の帰りを待つしかないらしい。
(人がいないと何も出来ない、か)
こう聞くと、今の一方通行からすれば中々に皮肉が効いていると思う。
ミサカネットワークという存在がなければ、何も出来ない超能力者(レベル5)。本当に笑ってしまうほど皮肉が効いている。
と。
「────ただいま」
ガラガラ、と玄関を開ける音が聞こえた。
そのまま、こちらへと近づいてくる足音が耳に入る。どうやら、衛宮達が帰ってきたらしい。
玄関を開けた音から数秒経つと、今度は部屋の襖が開けられた。
「────あ。……ただいま、アクセラレータ」
「……ああ」
一方通行は机に肘をつけたままテレビから視線を逸らす事はなかった。
そんな態度にも慣れてきたのか、衛宮は少し安心したと言った雰囲気で苦笑する。その笑みにどう言った意味が込められているのか、一方通行は知る由もない。
「さて、と」
衛宮はそう言うと、手に持っていた袋を壁の近くへと置いて台所へと向かう。
先程帰ってきたばかりの筈だが、もう夕食を作るらしい。普通なら休憩のために床に座ったりするものだと思うが、衛宮は苦い顔をする事もなく、さも当然と言ったように台所へと立った。
……昨日から思っていたが、例え一人暮らしだとしても家事スキルが高すぎではないだろうか? 昨夜の夜食に風呂に洗濯。もう、そこら辺の一人暮らしとは比べ物にならない気がする。
自動炊飯器で全ての料理を作ろうとしていた黄泉川とは大違いだ。間違いなく天と地の差があると思う。
「アクセラレータ」
と、テーブルの一方通行から少し離れた位置に座ったセイバーが声を掛けてきた。
「あン?」
「つかぬ事を訊きますが、貴方は今日何をしていましたか?」
「……何だいきなり」
呆れたような顔をしながら一方通行は言う。
唐突な質問の意図が掴めない。もしかしたら、家を留守にしていた間に何か起こしたのではないかと疑っているのだろうか。
「まァ、寝てただけだ。それ以外には何もねェな」
「そうですか……」
何故か面倒な事になる気がしたので、手をヒラヒラと振って考えるのを止めろとアピールする。
テレビで流れているニュースでは『深山町のマンションで遺体が発見』というテロップが流れていた。

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