9.オルテミスの街並み
「ん〜……9,400?まあ少し色付けて10,000L(ルーネル)でいいっすかね。優秀な探索者の卵に先行投資ってことで、ほい」
「い、10,000L……!すまないヒルコ!助かるよ!」
「エッセルからも今日のあんたの報酬は甘くしろって言われてるんで、別に気にしてくれていいっすよ。存分に感謝してくれていいっす」
6階層で薬草を採取り、エッセルに対して納品を行った後、リゼは魔晶の換金のために再び鑑定士のヒルコの元を訪れていた。
本当ならばこれから昼食を食べて街の案内をしてくれる筈だったマドカは、何やら緊急の要件があるからとギルド長のエリーナの部屋へと連れて行かれてしまい、今ここには居ない。
とは言え、彼女もそれなりに強い探索者だと言う。探索者の少ない今の時期、街の対処のために残されている彼女がこうなるのも仕方のない事ではあるのだろう。街を見て回りたいというのは本音なので、出来れば午後には帰ってきて欲しかったが。
「……にしても、2日でワイアームを単独撃破とは。アンタここに来た時のマドカ並みの逸材っすね」
「む、そうなのか?マドカも新人の頃から強かったのか」
「まあ、スフィア無しでワイアーム単独討伐するくらいには」
「……冗談だろう?」
「この街の上級探索者はそんなんばっかっすよ、いちいち驚いてても体力の無駄……むしろそれくらいじゃないと上級探索者になんかなれないっすから」
思わぬ所で聞けたマドカの話に、リゼは驚く。
彼女はなかなか自分の事を話してはくれない。だが彼女の周りに居る者達ならば、なるほど確かにこうして話してくれる。どころか、例えとして話しやすい人物であるのかもしれない。
目の前に座る気怠げな様子で客に対しても適当な敬語しか使わないこのヒルコという女性であっても、マドカには一定の評価をしている。探索者としての力を付けるためにも、マドカの生き方を参考にするべきだ……と心の中で言い訳をしつつ、リゼはその話を引き伸ばした。
「マドカはいつ頃から探索者を?」
「あ〜、襲撃の後っすから、6年くらい前?いやそれは街に来た時か、探索者になったのは5年前っす」
「たった5年で上級探索者になれるものなのか?」
「マドカはどっちかって言うと中級探索者の上澄みって感じっすけど、それも人によるっすね。100年近く生きてるエルフと40年生きてるヒューマンが同程度……かと思えば龍殺団の長は15の小娘っすから。40〜50年程度の実力差なんか本物の化け物は一瞬で追い抜くっす、アンタもこの街に住んでればそれが嫌でも分かるようになるっすよ」
溜息混じりにそう言うヒルコ。如何にも天才肌な雰囲気を持つ彼女であるが、彼女もまたそういった経験をした事があるのかもしれない。
なんせギルド長があのような明らかに戦場をいくつも潜り抜けてきた様な見た目をしているのだ、目の前の彼女やあのエッセルという受付嬢も、もしかすれば探索者上がりの職員という可能性もある。
「ま、アンタも二つ名が付けられるくらいになったら十分っすね。あんまり高望みせず、平和に死なずに生きるのが吉っすよ」
「……?二つ名?」
「10階層を突破した探索者にギルドから与えられる別名の様な物っす。それすら知らなかったんっすか?」
「いや、一体それに何の意味があるのかな、と。普通に名前と所属クランだけでも情報としては十分な気がするのだけれど」
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