ハーメルン
無知で無垢な銃乙女は迷宮街で華開く
8.階層主ワイアーム

ダンジョン5階層へ向かう最中、マドカには全く襲い掛かって来ない癖にリゼを見るや否や襲い掛かって来るドリルドッグを何度も何度も殴り付けながら、2人は穏やかに歩いていた。
その大銃で頭を思いっきり殴り付ければ、そのまま灰となって魔晶を残し崩れ去っていく角犬達。しかし彼等は倒せど倒せど次々とダンジョンを構成している真っ白な壁面からまるで粘土の様に生み出されていくのだから、厄介どころか気味が悪いとすら思えてきてしまう。

「本当に何なんだ、このダンジョンに生息するモンスター達は……」

「不思議ですよね。とある学者さんによると全くの同個体が生み出されているみたいですよ?記憶の引き継ぎは無いので、行動パターンは殆ど変わらないみたいですが」

「……それはつまり、階層主も同じという事なのだろうか」

「ええ、そうみたいです。私もあまり詳しくはないのですが、どうも倒したモンスターの灰も床や壁に溶け込んでいるみたいなんですよね」

「けれど、外のモンスターも倒せば灰にはなるだろう?」

「……となると?」

「まさか……外に居るモンスター達はその全てが元はダンジョン産?」

「という学説もあります、あくまで一説ですけどね。まだ灰の一粒一粒を解析する様な方法もありませんので、誰にも詳細は分かりません」

「な、なんと……」

「ふふ、リゼさんは本当にこういう話がお好きですよね。リゼさんの為にも私も今度そういうお話を勉強して来ないとです♪」

「あ、いや……!すまない、私の悪い癖なんだ。どうもこういった不思議な話というか、そういうものにめっぽう弱くてね」

「リゼさんってもしかしてオバケの話とかもお好きですか?」

「……恥ずかしながら大好物だよ。祖父が持っていた怖い話を集めた書物を何度も読み返していたくらいさ」

「ふふ、いいじゃないですか。恥ずかしがる様な趣味ではありませんよ」

「うう、つい先程探索者として切り替えたばかりだというのに……自分が恥ずかしいよ」

そんな風に思わず顔を赤くしながらも、襲い掛かって来る犬共を大銃で吹き飛ばすリゼ。
リゼは魔法やドラゴンスフィアに強い興味があったが、しかしその興味の対象はもっと大きな物。不可思議な物、存在すら不明な物、様々な伝説や噂話、作り話などの現実とは思えない出来事。そういった物が大好物なのだ。
幼い頃に人が死した後に再び霊体となって現れる小説を読んでいた時には、夜に一人でトイレに行く事も出来なくなる程に影響されてしまった癖に、何度も何度も繰り返しその本を読んでいた。
ただの人族でも魔法が使える様になり、その力を使って悪の組織を打ち倒すという小説を読んでいた時には、祖父が工房に籠っている事をいいことに何度も何度も小説に出てきた魔法を詠唱してみたものだ。
彼女は根本的にそういう話に興味津々なのだ。
何度も何度も気を取られて話し込んでしまうのには、そういった理由もある。

「……よし、まずは5階層の階層主を倒さないといけないね。何事も話はそれからだ」

「もう大丈夫ですか?」

「ああ。……ただマドカ、明日の午後とかに時間が取れればいいのだが、昨日少し話していた講義の様な物をお願いすることは出来ないだろうか?どうもこの雑念を断つには一度じっくりとそういう話を聞いた方が良い気がするんだ」

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