不動卿の想い
クラヴァリさんとテパステさんお話の内容が本当なら、
灯台下暗しです。
なにより時間が有りません。
ボクはそのヒントを信じて突き進むのみです。
そしてどれだけ時間が経ったことでしょう。
ボクが二層で食材探しをどうにか済ませて、
夜も更けてきたころになって
監視基地に戻ると既におし様は、
地臥せりの方たちと共に出来上がっていました。
「おお、マルルクちゃんお帰り~」
「悪いなマルルク。
俺たちで先に酒盛りおっ始めちまってるよ」
「遅かったじゃないか、マルルク。
てっきり逃げ出したと思っていたよ。
もし、吊るされに戻って来たならいい度胸だねぇ」
「さっきまでは本当にマルルクが蒸発したら、
どうしようとか心配しとったくせにの~」
皆さんボクの苦労をよそに言いたい放題言ってます。
「チッ、うるさいねぇ。
でも、その様子じゃ首尾は上手くいったって顔だね」
「はい、運よくお目当ての魚を
釣り上げる事が出来ました」
早速調理に移り酔い覚ましのスープを作って行きます。
すでにオースと監視基地を行き来して
疲労が溜まっていましたが、
キッチンに立つと、
自然と元気と集中力がみなぎってきます。
食材を包丁で裁き、かき混ぜ、鍋で煮る。
無意識に体が迷いなく動いてゆく。
やはりボクにとってここが
自分の居場所なのだと気づきました。
「これは……」
出来上がった酔い覚ましのスープの皿を丁重に、
おし様のテーブルの前に置きます。
「どうですか?おし様、お味の方は……」
しばらくの沈黙の後、
おし様は口を開きました。
「ライザにトーカ、そしてマルルク。
若輩者にこの私が追い越された気分だよ」
「じゃ、じゃあ————」
「大正解だ。懐かしいあの頃の味だよ」
そう言って目を細めるおし様の眼差しは、
いつもより潤んで見えました。
きっとおし様にとってこの酔い覚ましの味は、
数え切れないほどの苦楽を共にしてきたライザさん、
トーカさん、ハボさんとの思いでの味だったのでしょう。
「それにしても、食材は一体何を使ったんだい?」
「魚肉はハモロゲを香味野菜は
イリノハネマキに変えてみました。
棒味噌と卵黄についてはそのままです」
「ハモロゲねぇ……
あれは海魚のはずだろうに、
オースで手に入れたのかい?」
「じ、実は……」
ボクはオースに出てから、
クラヴァリさんとテパステさんのこと以外は、
ハモロゲを釣り上げた場所についても、
包み隠さず話しました。
逆さ森の最深部アビスの外壁にそって
海水が溜まった池があり、
クラヴァリさんいわく海底の深海魚が、
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