ハーメルン
アスティカシアの中心で『ロケットパンチ』と叫んだ男
06. いざいざ決闘
「グエル・ジェターク、君はこの決闘になにを賭ける?」
「……これはあの時のやり直しだろ。だったら変わらねえ、アスム・ロンドとのふざけなしの決闘だ」
立会人を務めるシャディクの問いかけに、暗い表情のままでグエルは答えた。その威勢のいい中身とは裏腹に、言葉にも力がない。
そんなグエルはまもなく一つの決闘に向かうことになっていた。一人の少女とMSの運命をかけた戦いだ。スレッタ・マーキュリーが勝てば、ミオリネの退学もエアリアルというMSの廃棄も取り下げ。ガンダムであるという疑いは、いったん不問に付すことになっている。
だが、そんな事情はグエルには関係がない。
グエルの心を支配するのは、シンプルで深い迷いだ。
(……俺は、なんでこの決闘をしている?)
完膚なきまでに負けた。
それがグエルの考える、先の決闘の勝敗。
油断はもちろんあった。田舎者の水星女に、学園のルールというものを叩きこんでやろうと、そんなことを思っていた。だが、だとしても手は抜いていない。どんな決闘にも手を抜くことはしない。それは自分たちがこの三年間、真剣に打ち込んできた決闘という舞台を汚すことになるからだ。
その真剣勝負において、いかなる事情があろうともグエルは負けた。
だというのに、その負けたという結果すら、大人たちの事情で取り上げられて再戦の舞台に立たされている。
(しかも、今度は……!)
「グエル?」
「っ、なんだ……!」
「いや。いつもと違って、楽しくなさそうだからね」
グエルを見るシャディクの眼は、いつもの軽薄で胡散臭い笑顔ではなく、相手を気遣うようなものだった。
おそらく、ジェターク社の思惑も、グエルの葛藤もある程度は想定しているのだろうと付き合いの長いがゆえにグエルは察しが付く。学生でありながら義父の側近として経営の世界に既に踏み込んでいる男だ、耳は恐ろしく良い。
そして、その心配はおそらく本心のものだとわかってはいたが、かえってその気遣いが苛立ちを助長させるのだ。
「勝手に人のことを詮索すんじゃねえよ……!」
「……わかった。出過ぎたことをしたよ」
それで、と。シャディクは視線を動かし、対戦相手であるスレッタへと向ける。
「水星ちゃん……いや、スレッタ・マーキュリー。君はこの決闘になにを賭ける?」
グエルはその言葉に、目の前の赤毛の少女を見つめた。
この少女と顔を合わせるのは、これで二度目。一度目は決闘の時にヘルメット越しでちらりと見ただけ。その時は、まだ学園に来たばかりで周りの状況に流されるだけの田舎者でしかなかった。
だが、
(こいつ……)
グエルは、スレッタの眼があの時と違っていることに気がつく。
「わ、私は……!」
声はどもり、おどおどとした調子は元のまま。だけれども、ただ目の前だけを見ているような不安な眼ではない。
「私が賭けるのは……っ!」
そしてスレッタが続けた言葉に、グエルは静かに息を呑んだ。
機動戦士ガンダム 水星の魔女
アスティカシアの中心で『ロケットパンチ』と叫んだ男
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