ハーメルン
【完結】アリス・イン・ワンダーランド 〜ルッキング・グラス〜
Track-11 約束
深夜。
目を覚ますと、繋がれた手は離れていた。
隣のベッドを見る。
そこに慧梨主はいなかった______
「慧梨主……」
静寂に包まれた部屋には、自分以外誰もいない。
ふと、階下から物音がした。
その音に導かれるように、俺は静かに1階へ降りた。
階段を下りて、廊下を少し歩くとリビング。
そして、その先に玄関へと続く廊下がある。
自宅より遥かにでかい家に改めて感心しながら、俺はその扉を開けた。
廊下の窓から差し込むわずかな月明かりが、玄関の扉を開けようとする人影が見えた。
「慧梨主……」
月明かりに浮かび上がったその姿は、確かに慧梨主だった。
カーディガンを羽織り、玄関のドアに手をかける。
こんな時間にどこへ……?
そう声をかけようとしたとき、
彼
(
・
)
女
(
・
)
がこちらを振り向いた。
「あ……夢明希じゃない」
宝石のような青い瞳も、
透き通った声も、
肩より少し長く切り揃えたセミロングも、
どれも慧梨主そのものなのに______
半分ほど開かれたドアから差し込んだ月明かりが照らし出す、自信を湛えた表情と、強気な口調は全く別人だった。
一瞬、何が起こったのか理解できなかった。
「え、慧梨主ちゃん……?」
おそるおそる名前を呼んだ。
だが、彼女は首を横に振る______
「残念、ハズレ」
「そんな、それじゃあ……」
「亜梨主よ。桜ノ宮 亜梨主______」
思考が止まった______
そこにいるのは、
目の前にいるのは、
誰がどう見たって俺の恋人。
桜ノ宮 慧梨主だった______
だが……
その女王を自称するような堂々とした出で立ちは、演技ではない。
俺の記憶の中にいる、
あの亜梨主そのものだった______
心臓がバクバクする。
冷や汗が背中を伝い、呼吸が荒くなり始めた。
どういうことなんだ。
意味が分からない。
ドアの隙間から差し込む夜風に乗って、シャンプーの香りが漂う。
夢じゃない______
目の前にいる慧梨主が、亜梨主になって立っている。
お前は誰だ______?
「ちょっと!何ジロジロ見てんのよ」
「!」
亜
(
・
)
梨
(
・
)
主
(
・
)
の声で、俺ははっと気が付いた。
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