ハーメルン
【完結】アリス・イン・ワンダーランド 〜ルッキング・グラス〜
Track-1 再会

『なっ……それおもちゃでしょ?仕舞いなさいよ、そんな危ないもの!!』

慧梨主がナイフを鞘から引き抜いたとき、アタシはようやく気が付いた。

『大事なものを奪われた時ってね、心がとってもズキズキするんです……』

慧梨主の光を失った瞳からは、涙すらも流れていなかった。
まるで、全て流し尽くしてしまったように。

『楽しかった思い出が、ぜーんぶ無駄になって……思い描いていた未来が、ぜーんぶバラバラになって……ウフフ』
傷も錆もない刃を人差し指で撫で、恍惚の表情を浮かべる慧梨主。
『痛いなあ……すっごく痛いなあ……』
瞳が、アタシに向いた。

『この痛みって……説明しても、分からないですよねえ……?だったら……』

身体で分かってもらうしか……ない______

『慧梨主!?いい加減にしないと許さないわよ!?』
アタシは苦し紛れに吐き捨てた。
いつもアタシの言うことを聞いてきた慧梨主なら、きっと我に返ってくれるはず……と。
『許さないのはこっちですお姉さま?』
アタシの魂胆が見え透いているかのように、慧梨主は不気味に笑った。
聞いたことのない、悪魔のような笑い声。

『私のお姉さまは……清廉潔白で思いやりがあっていつも私を支えてくれた……だから……っ』
慧梨主の目つきが変わる。
『私を裏切るようなことは絶対にしない!お前はお姉さまじゃない!!』
『人を平気で裏切る……この……』


人でなし____________!



慧梨主が飛び掛かってくる。

ナイフの切っ先をアタシに向けて______

『いやあああああああ!!』

アタシは必死だった。
手の側にあった本を投げつける。

慧梨主はそれを突っ切って、真っ直ぐアタシに突っ込んでくる。

『慧梨主!やっ!やめなさ……!』

ナイフを突き刺そうとする慧梨主を、何とか跳ねのけようとする。

『これからもっ!私を!嘲笑いながら!生きていくんでしょっ!?』

物を投げつけ、必死に抗う。
投げかけられる言葉のひとつひとつが、心に深々と突き刺さっていく。

『いつも見下して!必死な私を嘲笑って!!』

やっとのことで、慧梨主の身体を突き飛ばす。
壁際の本棚まで吹っ飛ばされたのに、彼女はひるまない。

『私の心を……土足で!踏みにじる______!!』

歯を食いしばり、ナイフをアタシに向ける。
それよりも、慧梨主の憎悪に満ちた表情が、恐ろしかった。

『お願い慧梨主!アタシの言うことを聞いて!』

焦りと恐怖の懇願が、悲鳴となって部屋に響き渡る。

どうか、どうか______

慧梨主の心を返して______

お姉さまと呼び慕う、
いつもの優しい慧梨主を______

『……消えて……』

肩で息をしながら、慧梨主は両手でナイフを握りしめる。

『あんたなんか……この世界から、消えてよぉおおおおおおおおおおおおお!!!!』

満身の力を込めて、飛び掛かってくる。

『きゃああああああっ!!』

避けきれず、アタシは慧梨主の下敷きになった。

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