ハーメルン
【完結】アリス・イン・ワンダーランド 〜ルッキング・グラス〜
Track-6 夢を叶えて

風が冷たくなってきた。
10月をすぎると、朝方と夕方はとっても寒くなる。
試験明けの日曜日、私と夢明希くんはおそらく今年最後になるであろうデートに出かけた。
これから、大学受験に向けて大詰めになる。
寂しいけれど、将来のことも考えなくてはいけない。

「受験勉強、大変そうだね」
夢明希くんとの会話も、今日は受験の話ばかりになってしまう。
「ええ。でもそんなに高いレベルの学校ってわけでもないですし、ちゃんと真面目に勉強していれば大丈夫ですよ」
私は、隣町の普通大学を志望した。
担任の先生にはもっと上を目指した方が良いとも言われたけど、自分が行ける一番高いレベルの大学で魅力的なところは無かった。
それに我が家の貯金と親戚の仕送りで通うことになるので、あまりお金もかけたく無かった。
「あと……夢明希くんとは離れたくないですしね」
その言葉で、夢明希くんの顔が赤く染まった。
「えっへへ、ありがと……」

私達は、河川敷の広場に来た。
ベンチがいくつかあるだけで、空がオレンジ色に染まってるのもあって寂しげな空間だった。
「どうしてここに?」
夢明希くんは私に尋ねた。
ここにわざわざ連れてきたのには、実は大事なわけがあった。
「ここは……私と、お姉さまとの全てが変わった場所なんです」
ここに来た理由……それは、人生で一番悲しい出来事が起こった場所だから。
そして、今ここでその思い出を拭い去りたかったからだ。


高校一年生の頃は、今とは違う学園に通っていた。
私とお姉さまと、そして私のかつての恋人……お兄さまと。
お兄さまに歩み寄ったのは、私の方からだった。
お姉さまの後押しもあって、私からお兄さまに告白し、お付き合いする事になった。

だけどそれからしばらくして……
私は見てしまった_________

「お姉さまが、お兄さまと抱き合ってるとこ……」

それまでにも、なんとなく予感はしていた。
時が経つほどに、お姉さまとお兄さまとの距離が近づいていくような。
そして、私からお兄さまが離れていくような……
積み重なっていた不安が、現実となって私の心を押し潰した。

なんで、どうして_________

お姉さまは……私がお兄さまとのお付き合いを、認めてくれたんじゃなかったの?

悲しかった。
ずっと好きだったお兄さまに、
ずっと憧れだったお姉さまに、裏切られた______

そして悲しみは、やがて不信へと繋がっていく……


いつしか私は泣いていた。
「……大丈夫?」
夢明希くんは、そう言って私を抱き寄せた。
「ごめんなさい……こんな、暗い話しかできなくて……でも、どうしても……夢明希くんに聞いて欲しくて……」
「大丈夫だよ、なんでも話してくれた方が……だって、俺……彼氏だし」
夢明希くんの腕の中は、肌寒い風が吹いていても、とってもあったかい。
「ずっと、ずっとそばにいるから」
「ありがとう、夢明希くん……!」
私は、彼の温もりに身を任せた。








帰り際。
「私、最近夢を見ることがあるんですよ」
「そりゃ……まあ見るんじゃない?」

[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/2

[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク
携帯アクセス解析