ハーメルン
【完結】アリス・イン・ワンダーランド 〜ルッキング・グラス〜
Track-7 初恋
俺が小学生の頃。
どうしても気に入らない奴がいた。
元々、気の強い女子とか、偉そうにリーダーぶってる女子が大嫌いだった。
その筆頭とも言うべき存在が、桜ノ宮 亜梨主。
あの頃、あいつの青い瞳を思い出すだけで腹が立った。
『ちょっと!いつまではきそうじしてんのよ!次はぞうきんがけでしょう!?』
『なんだとー!先生はちゃんとていねいにやれって言ってたじゃん!』
『なによ!アンタたちさっきから遊んでばっかりじゃない!はやくほうきしまってぞうきん濡らしてきなさいよ!』
こういう、何も得るもののない口喧嘩を事あるごとにしていた。
小学1年生で同じクラスになってから、5年でクラスが別になってもなお続いた。
クラスではもちろん学年でも有名な間柄で、先生方にも「ほどほどに」とたしなめられていた。
小学校3年生の、ある日の帰り道。
通学路の途中で友達と別れ、俺は一人で歩いていた。
ふと前を見ると、亜梨主らしき人影が、一人でとぼとぼ歩いてるのを見つけた。
大きな女子グループのリーダー格でもあった亜梨主は、いつも集団で登下校していた。
だから、そんな風に歩いてるのは見たことがない。
からかってやろうと、俺はそーっと近寄った。
だが真後ろにまで迫った辺りで、俺は気づいてしまった。
亜梨主じゃない。
気配に気づいたのか、彼女はこっちに振り向いた。
『あ……』
目の前にいたのは、慧梨主だった。
慧梨主は、亜梨主の双子の妹だった。
双子なのは学年全体で有名な話で、もちろん俺も知っていた。
亜梨主なんかとは違い、慧梨主は物静かで大人しく、心優しい性格をしていた。
だがクラスが違うので話したことは全然なかった。
『な……なんですか?』
慧梨主は、怯えたようにこちらを見ていた。
『え、いや!いやなんでもないよ!ご、ごめん……』
俺は慌てて笑顔を作り、危害がないことを伝えようとした。
慧梨主が泣きそうに見えた俺は、必死になって誤魔化した。
その後、通学路が一緒だったので、俺と慧梨主は並んで帰ることにした。
『どうしてお姉さまとけんかばっかりするんですか?』
『え?』
途中、慧梨主は俺に尋ねた。
答えに困った。
今ならいくらでも分析ができるが、9歳の少年にそんなことができるはずもなく……
『うーん……なんか、てきなんだよ!』
『てき?』
『うん!てき。たおさなきゃいけないんだ!』
なんて答えてみたが、今思い返すと何を言っているんだか分からない。
慧梨主も、いまいち分かってないようだった。
その後も、俺の最近買ってもらったでっかいトミカの高速道路の話をしたり、慧梨主の亜梨主との日常を聞いたり、お互いの学校生活のことを話し合ったりした。
やっぱり、あの亜梨主と双子とは思えないほど大人しい性格で、そしてすごく優しかった。
とても楽しい時間だったが、あっという間に桜ノ宮家の前に到着してしまった。
『へぇー、すっごいりっぱな家だね』
『ありがとう……それじゃあ、さようなら』
『うん!またこんどいっsy』
自分家へ歩き出そうとした途端、世界が転げ回った。
気がつくと、俺を押し倒してマウントをかけた亜梨主が、凄い表情をしながら睨みつけていた。
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