ハーメルン
【完結】アリス・イン・ワンダーランド 〜ルッキング・グラス〜
Track-8 再会
今日は、ゴールデンウィークの前半と後半を分ける平日だ。
当然登校日だけどたかが2日。
せっかくの連休をぶった切られてはたまらないので、適当な理由をつけてサボってやった。
それに、授業なんかよりはるかに大事な用事もあった。
憧れだったタミヤのアバンテを遂に手に入れ、完成させた。
そのシェイクダウンを一刻も早くやりたかったのだ。
1980年代のラジコンレース全盛期において、他社の牙城を崩すためにタミヤが生み出した競技専用バギー。
そんな伝説の完全復刻版が、数年前に発売された。
当時の最新鋭かつ個性的なメカニズムをそのまま強化して蘇ったキットは、まだ小学生の俺には小遣い的にも技術的にも手の届かない「憧れ」だった。
そうこうしているうちに周辺の模型店から姿を消し、たまに行われる再販も金銭的に都合がつかず、手に入れられず仕舞い。
それでもあきらめきれずに片想いを続けていたが、この間たまたま入荷したキットを馴染みの模型屋で発見し、速攻で手に入れた。
操作に使うプロポやらも入れて、長い春休みにしたバイト代が飛んだ。
グラウンドのような地面の上を、砂煙を上げながらアバンテが駆け回る。
モーターの甲高い回転音と、4輪が地面を蹴る音が響き渡る。
メタリックブルーのボディが、快晴の空と満開の桜によく映えた。
夢を一つ叶えた瞬間だった。
今まで走らせてきたマシンとは一線を画す走り。
それに感動していると、突然アバンテの挙動が変わった。
「おおっ!?」
慌てて駆け寄ると、前輪が外れていた。
脱輪してバランスを崩したらしかった。
アバンテは普通のナットではなく、特殊なカムロックホイールを採用している。
工具レスでタイヤ交換できる反面、構造が複雑で耐久性が低い。
作っていても、これ大丈夫かと少し不安になった。
そして、肝心のタイヤがない。
「どこ行った……」
辺りを見回すと、アバンテの黄色いタイヤがコロコロと遠くへ転がっていく。
カムロックは途中に落っこちていた。
そして、タイヤはベンチに座っている女子高生の足に当たって止まった。
「うわ……」
めっちゃ気まずいが、当然タイヤがないと走れない。
「すいませーん!!」
プロポ片手に、彼女の方へ駆け寄る。
「いえいえ、どうぞ」
砂まみれになっているのを気にする様子もなく、彼女はタイヤを拾って渡してくれた。
優しい笑みを浮かべている。
「あ、ごめんなさい。ありがとうございます」
お礼を言いながらタイヤを受け取る。
その彼女を見て、俺は驚いて固まった。
「え?あの……?」
「もしかして……慧梨主ちゃん?」
目の前にいたのは、間違いなくあの慧梨主だった。
胸の鼓動が早まった。
大人しそうで、清楚でお淑やかな雰囲気はまさしく彼女だった。
が、彼女はきょとんとしてこちらを見ていた。
「……あ、違いました?すいません、人違いです」
ラジコンのタイヤを拾ってもらった挙句に人違い。
あまりの恥ずかしさに、俺は平謝りしてそそくさと立ち去ろうとした。
「えっと……あの!合ってますよ!正解です!」
その時、彼女はそう言った。
やっぱりそうだ。
間違えるわけがない。
「あ!よかった!あの……俺のこと覚えてますか?」
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