ハーメルン
【完結】アリス・イン・ワンダーランド 〜ルッキング・グラス〜
Track-9 告白
俺は部屋の押し入れを漁っていた。
昔遊んでいたトミカの高速道路や、立体パーキングも引っ張り出し、ただでさえ狭い俺の部屋は足の踏み場も無かった。
「あったあった」
一番奥から、赤い塗装がところどころ剥げた、スナップオンのツールボックスを取り出した。
小さい頃に父さんがくれたもので、宝物をしまうのに使っていた。
もう何年も開けていない。
ヒンジに5-56を吹き付けて、重厚な蓋を開く。
中には子供のころにしまっておいた特に大切なミニカーや、もらったお年玉のぽち袋が入っている。
そして、その奥に花柄の白いハンカチがきれいに畳まれていた。
「……」
あの時の記憶が蘇る。
亜梨主に本気でキレられ、泣きそうになったみじめな俺に、慧梨主は優しくそのハンカチを渡してくれた。
あの時から抱き続けた恋心が、鮮やかに蘇ってくる。
「慧梨主______」
抱きしめるように、俺はハンカチを胸元に寄せた。
明日は俺にとって運命の1日だ。
長年の片想いに、決着をつける。
「ごめんな、こんな朝っぱらから」
「いえそんな……」
早朝。
俺が慧梨主を誘ったのは、チャリで20分程のところにある丘の上の公園だった。
昼間は子供達の遊び場だが、この時間帯は格好のサーキットになった。
「ラジコンやるのってさ、広くなきゃなんないし、人いたら危ないし……ってなるとこんな時間しかないんだよね」
申し訳なく思いながら、俺はアバンテにバッテリーを繋いだ。
「いえ、大丈夫ですよ。私も……あまり人の多いところは、苦手ですし。それに、誘ったのは私の方ですし」
「でも、ラジコンしてるとこが見たいって……なかなか不思議なリクエストだよね」
きっかけは慧梨主だった。
あの日以来、彼女とはほぼ毎日LINEでやり取りしている。
たまに遊びの誘いが来たり、こっちから誘ったりもするが、今日は慧梨主のリクエストだった。
いつもは一人か、ラジコン仲間数人としか走らせない。
正直言えば、ラジコンに興味のない人間の前で走らせるのは好きじゃない。
俺はオフロードを普通に走らせるのが好きだった。
競技用のめちゃくちゃ速いマシンとか、比較的万人ウケするドリフトマシンならともかく、俺の遊び方は興味のない人間からすれば全く楽しくないらしい。
かといって技術のない素人に、大事なマシンを貸すのも嫌だった。
それでも、慧梨主に誘われたときは素直にOKできた。
好きな人が相手だと、ポリシーも何もかもが変わってしまう。
俺は慧梨主のことがここまで好きなのか……と自分でもびっくりした。
「慧梨主ちゃんもラジコン気になるの?」
期待を込めて俺は聞いた。
もしかしたら新しいラジコン仲間が増えたら、こんなにうれしいことはない。
「え?いや……でも、ラジコンしてる夢明希くんが、一番キラキラしてるっていうか……その、見てて元気が出るんです」
期待した答えが返って来てないのにも気付かず、俺は顔が熱くなってきた。
「あ……そ……それは良かった。あはは……」
「大丈夫ですか?顔が赤いですけど?」
「……えへへ」
照れまくっている俺の心情を見透かしたように、慧梨主がいたずらっぽい笑みを浮かべていた。
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