16.初配信!
「初配信だ……」
「お、おう」
頭を抱える鷹宮に対し、でびでび・でびるはそれよりも多少冷静だった。
「やばいよ、このボタンを押したらもう……」
「いや小娘、なんでボクより緊張してんの?」
「待って、まだ押さないで! 心の準備が……あー⁉」
無慈悲にも悪魔の人差し指はボタンをしっかりと押し込んだ。
「待てって! てめえクソコアラ! まだ心の準備が出来てねえって言ってんだろぉ!」
これが動画配信アカウント・でびリオンチャンネルの第一声だった。
ーーーーーーー
「やっちまった……」
部屋の隅で体育座りする鷹宮リオンを置いて、悪魔はパソコンに向き合っていた。
「うん、心の準備なんかしてないうちに配信開始しちゃうよ~ん作戦は大成功みたいやね。snsの反応も上々やし、いい滑り出しだよ!」
「ああ、鷹宮が縮こまってる間はでびるとリスナーに翻弄されつつも、行き過ぎるとキレてまたすぐに縮こまる、この繰り返しでバランスが取れてたんだろうな。鷹宮も次からはもう少し強く出ても自然に受け入れてもらえると思うぞ」
本間ひまわりと社築が慰めるも、鷹宮は壁から離れなかった。
「小娘、コメント欄を見てみろよ。お前、可愛いって言われてるぞ?」
「へ?」
鷹宮は悪魔が見せるスマホの画面を疑うように凝視する。確かにそこにはたくさんの人たちが鷹宮リオンの容姿や言動を褒めるようなコメントが書き込まれていた。
「私が、可愛い……?」
「あれ、配信中にも可愛いってみんな言ってたよ? リオンちゃん見てなかったの?」
ひまわりの言葉に鷹宮はハッとする。確かに流れていた。あれはそういう意味だったのか……。不思議な感覚だった。会ったこともない、顔も性別もわからない、知らない人たちが自分に好意的な言葉をかけてくれるのだ。
鷹宮は無言で動画に寄せられたコメントを確認していく。自分のことを称賛するコメントが目に入るたび、胸の奥が高鳴った。ふと、動画の再生数を確認した。おおよそ三万回……、チャンネル登録者数は六百人。
「これだけいれば……でびる、何かできるようになるんじゃ⁉」
「ああ、そうか! ちょっと待ってろよ」
と悪魔は目を瞑って俯いた。きっと自分の身体や状態の変化を探っているのだろう。
「よし、見てろよ小娘!」
目を開けた悪魔が人差し指を立て、目を細めてそこに集中するようなしぐさを見せる……。
ひまわりと社も静かに見守る中、ボッと音を立てて悪魔の人差し指に小さな炎が灯った。
「うわ! でびちゃんすごい!」
「ああ、葛葉から聞いてはいたが、まさか本当だったとはな」
ひまわりと社も感心したように炎に見入る。そんな中、鷹宮だけは冷静だった。
「本間さん、社さん、またもう一度配信してこれを見ていただければもっと人が集まりますか?」
うーん……と二人は唸る。
「俺は一度単発で録った動画を出すのがいいと思う。そのあと生配信で披露、みたいな」
「ひまもそれがいいと思うな。まだ無名なんだし、限られた時間の配信中に人が滅茶苦茶増えるって考えにくいかも。一回一回大事にしていかんとね」
鷹宮は納得して頷いた。
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