4.急襲
教会を出た鷹宮リオン、でびでび・でびるを、妙に掠れた女の声が呼び止めた。
「はっはっはっ……! お前らそこで止まれ。ストップ、ストップだぁ!」
二人が声のした方を見ると、メイド服にヘルメット姿の女が木陰から姿を現した。
「お前らどう見ても弱そうだなぁ?」
「なんだお前‼」
思わず悪魔がツッコむ。二人が自分の格好にドン引きしているのに気づき、女は地団駄を踏みだした。
「これは変装だよ! 変装! 私の趣味じゃねーから! そこんとこよろしく!」
そして女は二人に向けてビシッと手で示し、
「人殺しとかよくないし、気絶くらいで調節してお願いしますっ! やっちゃってください!」
木陰からもう一人、男が現れる。髪をオールバックにし、マントを靡かせる紳士然とした男だったが、その顔には薄ら寒い笑みが浮かんでいた。
男は威風堂々とした振る舞いで二人の前に歩み出ると、軽く礼をした。
「諸君、ご機嫌いかがかな? こんないい夜に君たちと出遭えたのも、全てはマスターが屑であるため。どうか私を恨まないでいただきたい」
鷹宮は唾を飲むと、一歩前に歩み出て礼を返した。
「えーっと、これはどうもご丁寧に。戦争ですので覚悟はできています。恨みなんかいたしません」
「これは素晴らしい。どのような覚悟とも生涯無縁な私のマスターとは大違いだ。今からでも私のマスターになっていただきたい」
「てめぇ、聞こえてんだよこらぁ!」
とまた女が地団駄を踏む。
「おっと、あんまり愚痴ると令呪を使われてしまうのでね。そろそろ始めるとしよう。弱者を一方的に急襲するのも醜いことではあるが、人類の繫栄の裏側には常に醜いものがあった。この醜さに目を背けず、最善を尽くすことこそ天才である私の役割と心得る。さあ、心の準備はできたかな? 立派なマスター、そして小さな小さなサーヴァントよ」
男は空へ手を掲げる。その瞬間、轟音を上げて雷が男の手に落ちた。
鷹宮は信じられないというように目を見張った。急に集まり出した雷雲の下、男の体には青白い光がめまぐるしく走っている。
「ふむ」
男はそこにあった木へと指を向けた。すると指先から一筋の雷が迸り出て、轟音と共に木は黒焦げになって燃え尽きた。
「逃げるっきゃない!」
鷹宮は一目散に駆け出した。
「待ってよ小娘!」
悪魔もその背を追いかける。
「逃げるか。とても合理的で共感できる……残念だ」
男が指先を二人の背に向けたそのとき、鷹宮が振り返って何かを投げつけた。
男の注視するそれは赤い宝石だった。キラキラと光りながら空中に放られたそれは、ゆっくりと弧を描きながら男のマスターの方に向かっている。男の目は宝石の内側に宿る小さな炎を見抜いた。
「ぬん!」
男の指先から放たれたビームのような太い雷が宝石を吹き飛ばし、次の瞬間、遠くで起こった爆発が空気を揺らした。
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