ハーメルン
ようこそ百鬼夜行の跋扈する教室へ
面霊気の階 SIN




 軽井沢を祓う――か。彼女が欲しているのは優秀な寄生先だ。だがそれでは根本的な解決にならない。オレ自身がバディ、或いは影の支援者となって彼女自身の問題解決能力を高めるとともに、上手く平田依存からフェードアウトさせること、要は自立した女性を形造らなければならない。
 幸いにも取っ掛かりは昨日の夜の一件で出来たのだが――すまんな、軽井沢。今のオレにはこういう手段しか取れない。
 それに、もし軽井沢や他のクラスメイトが今後もCクラスに狙われたときのカウンターも準備しなければならない。真鍋達を手駒にすれば出来ることも増える――言い訳ばかりだな。


 だが、必ず救ってやる。

 オレが、オレで在り続けるために。

 オマエが、オマエで在り続けるために。

 オレ達が共に成長するために。




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 ――あたし、もうダメかもしれない。




「探したよぉ?軽井沢ぁ――昨日は一体何をしてくれたワケ?気付いたら居なくなってたけど、アンタまさか誰かにチクったんじゃないでしょうね?」

 三日目のディスカッションの中日。夕食前に平田君に会いに行こうとしたら、昨日と同じように真鍋達に囲まれた。平田か綾小路か中禅寺に連絡を――と思ったけど、よく考えたら平田以外の二人は連絡先を知らない。モタモタしている間に端末を奪われる。

「此処じゃあ人の目に付くかもしれないから、ちょーっと移動しようか?――抵抗するんじゃないよ?痛い思いが倍になるからね。」

 囲まれながら髪の毛を掴まれ、人気の無い下層の機械室のような所へ移動させられる。昨日は居なかったメガネの根暗な女――恐らくこいつがリカだろう。見覚えはあるような、無いようなだけど。
 こんなところ、ちょっとやそっと物音を立てても助けなんか来ないだろう。

 
「――じゃ、始めようか、軽井沢の土下座撮影会。」

「や、やめてよ……あたしは何も悪くない……。」

 逃げ出そうとするが、髪の毛を掴まれ壁に叩きつけられる。

「どうしたの軽井沢ぁ?――また泣いちゃう?」
「脚震えてんじゃーん♪ウケるー!」

 真鍋から平手打ちを喰らう。

「やっぱり――アンタ、虐められてたんでしょ?やられ慣れすぎている。」

 刹那、中学時代の記憶がフラッシュバックする。汚物に塗れた自分、生傷が絶えない躰、ズタズタの教科書、切れ味の悪い刃物で脇腹を裂かれる苦痛。
 呼吸が浅くなる。じっとりとした嫌な汗が吹き出る。目眩がする。

 嗚呼、また私を嘲笑う声が聴こえる。探るような視線、光を映さない瞳、猫を撫でるような声、薄気味悪い夜に浮かぶ三日月のような口――。

「早く土下座しろって言ってんだよ!」

 真鍋に頬を張られる。リカとかいう女が頬を張る。張る。張る。張る。張る。張る。

 痛みは耐えられる。だけどこの嗤い声、嗤い顔には耐えられない。

 どうして私はこんなにも弱いのか。

 どうしてこの世には救いが無いのか。

 どうして私が虐められなければならないのか。

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