蜃気楼の理 転
とうとう堀北まで可怪しな事を言い出した。だが池に続き堀北、そして恐らく平田も同様の経験をしているのであろうが、三人も不可思議な体験をしているのは異常としか言うことが出来ない。
「昨日の夜中に、その、お手洗いに行こうとしたら、森の中、100メートルくらい先のところに火の灯りのようなものが見えたの。不審に思って近づいてみたら、ふと灯りが消えて――もちろん、周りには誰も居なかったわ。」
堀北は顔を青くして独白するが、一体何が起こっているというのか。このクラスに何か不可思議なモノが憑いているとでも言うのだろうか?ホワイトルームでの教育もこの様な状況では助けてくれない。
しかし、やらなければならないことは山積みだ。まだ伊吹の隠した物を確認することができていない。恐らくトランシーバーだと思うが、万が一がある。
そしてリーダー外しの条件を満たさなければならないが、このまま堀北の体調不良を悪化させるような何かをして良いのだろうか。
更に平田をこのまま放置して問題は起き得ないだろうか。何か見逃している致命的なモノは無いだろうか、不安ばかりが広がる。こんな経験は初めてだ。
不安を払拭し、制約条件を緩める方法は――やはりあの男を頼るしかないか。
探し人は力仕事をオレと平田に押し付け、呑気に火の番をしている。
「中禅寺、依頼だ。火の玉を祓ってくれ。」
「嫌だ。」
「報酬なら払う。」
「そう云う事では無い。本当に嫌なのだ。あと、出来ない理由がある。」
「それは何だ。」
「言いたくないし、言えない。だが、君が成すべきと思ったことを為せば、とりあえず問題は無い。だからボクに“お祓い”を依頼する前に、成すべきことを為しなさい。差し当たり、これらのテントを移動させればキミは自由に動けるのだろう?狐が火の玉に翻弄されていては木乃伊取りが木乃伊になる以前の問題だよ。」
この言葉を果たして額面通りに受け取って良いのだろうか。中禅寺は恐らくオレがやろうとしていることをある程度わかっているのだろう。スパイである証拠を握り、AクラスとCクラスのリーダーを確定させ、リーダー外しを行うこと。そう、サバイバル――と謎の火の玉騒動――から視点を外せば、やるべきことは明確なのだ。だが、どこかで踏み切れない自分がいる。何なんだ、この感覚は。
「あなた達、一体何を――」
堀北が口を挟む。
「あのねえ堀北さん、キミはAクラスを狙っているのだろう。クラスを勝利に導くための手段を考え、実行する、あるいは“仲間”に実行させるのがキミの務めだよ。」
「そんな事、言われるまでもないわ。」
「そこの昼行灯気取りには外でやりたいことがあるそうだから、とりあえず放っておいて、キミは平田くんと協働してキャンプの中でやれることをみつけ給え。」
「私も綾小路くんと行くわ。」
「キミの体調が万全では無いのはボクも綾小路も知っている。探索班の仕事でも無い限り、外のことは誰かにやらせておきなさい。」
「――不承不承ながら、わかったわ。」
堀北が詰まりながらもそう返答すると、中禅寺は最早話すことは何も無いと言わんばかりに立ち去ってしまった。堀北もそれに合わせるようにして去って行く。本当に自分勝手なヤツらだ。これで平田がリタイアしたりすることになったらどうする気だ。オレが一番働いている気がするぞ。
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