第006話:黒い来訪者
『わたし』たちは、とりあえず軌道上まで上がった。現状のところ、カミーユ君は睡眠導入剤を使って眠っており、時折うなされている。ファさんがつきそっているが、その献身ぶりには頭が下がると言うものだ。
アムロ大尉とシャア大佐は、やはり双方複雑なものがある様だ。それはそうだろう。特にアムロ大尉からすれば、グリプス戦役で協力し合えたかと思っていた相手が、地球にアクシズを落とそうとしたのだし。
一方のシャア大佐側は、そこまでアムロ大尉にこだわりと言うか、執着を持ってはいない様だ。何がしかの思い入れはある様だが。おそらくはシャアの反乱の事件にて、アムロ大尉との間に完全決着がついてしまった事、自身もアムロ大尉に言いたいことは死に際にすべて吐き出せてしまった事があるのではないだろうか。いや、死に際って結局は生きていたのだが。
オーガスタ研から連れて来た、カミーユ君以外の被験者たちだが、今現在催眠暗示装置を製造してそれによる洗脳の解除を試みている。いちおうオーガスタ研の研究資料は全てコピーして手に入れてあるからな。なんとかなりはする、と思うんだが。
『だがなあ……』
「どうした、ワンセブン?」
『ああ、すまない。独り言が出てたか』
「ほんっと、おまえ人間臭いよなあ」
シグコン・シップの艦橋で、蒼い地球を眺めながらコーヒーを飲んでいたシロウが、失笑を交えながら言った。うん、ついつい独り言が出てしまったな。確かに機械っぽくなかったか。
『いや、な。自分たちの手は短いなあ、と思ってな。オーガスタ研は潰したも同然で、捕らわれていた被験者たちは救出した。だが、『わたし』たちには伝手も何も無いから、普通の暮らしに戻してもあげられない。
それにNT研究所はオーガスタ研だけじゃない。君が強化された第13NT研究所とか、他にもある。けれどそこの被験者たちとか、他のNT研究所にも手を出そうとか、そう考えるとねえ……。正直今の段階では、オーガスタ研からの救出者だけでも持て余してるくらいだ』
「……だよなあ」
『ネットを使って、そう言ったNT研究所の非道を暴露しようかとも考えたが……。度重なる戦乱やテロ組織との戦いで、民間にも活力とか意欲とか言うのが失われている。
解決になるかは、正直なところ……。いや、それどころかヤブヘビにすらなりかねない』
コーヒーカップを置き、シロウが肩を竦めた。その顔には笑みが浮かべられている。
「ま、俺としてもよ。古巣の第13は早目に潰れて欲しいけどよ。そうもいかねえのは重々承知してるんだ。
今回は偶然に縁ができたシャア大佐からの頼みのついでに、オーガスタ研を潰したけどよ。とりあえずはそんなもんでいいんじゃね? 縁があって、できることから1つずつ、だ」
『……そうだな、シロウ』
「第13に関しては、俺が1人で逃げ出して来た事からわかるだろうけどよ。被験者連中にも親しい相手とかって居なかったんだよな。ま、潰せれば潰す、程度に頭のどっかに置いといてくれるなら、それでかまわんぜ?
さて、次の目的地は何処にするかね」
『とりあえず、野良機械獣の被害が激しい地域や、ザンスカールやジオン残党の動きが多い地域でも回ってみようかと思っているのだがね。それと一緒に、一般市民を護りつつ。
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