伊地知の歩幅
貧血になるほど鼻血を出したのは人生で初めてかもしれない。後藤ちゃんは普段ジャージ姿でいることで、己の武器を抑え込んでいたんだね。もし後藤ちゃんが普段からおしゃれとかしてたら、おれは推し活を始めていた。間違いない。
いや待てよ。メイドということは従業員。従業員ということはチップを払える。貢げるじゃん。
「後藤ちゃん……お礼のスパチャ」
「えっ」
「こんな額しか払えなくてごめんなさい」
「う、受け取れないです。せ、先輩にはいつもお世話になってますし」
「世話なんてしてないでござる」
(1キュン1万円……)
「こーらっ! ぼっちちゃん困ってるでしょー」
「あれ? なんで伊地知たちこっちに?」
「ぼっちちゃんがいないなら、ぼっちちゃんのクラスに入っても意味ないじゃん」
「それなら後藤さんと合流しようってなったんです」
「あ、喜多ちゃんも合流できたんだ。早かったね。走ったの?」
「いえ走ってませんけど」
「あれ?」
(あ、やっぱり先輩。数分意識飛んでたんだ)
おれの時間だけ狂ってるのか? 実は地球人じゃなかった説。ないな。
「さっきおもしろそうな教室見つけたかラ、そこ行きたいデス!」
「おもしろそうな教室?」
「おばけ屋敷」
「あ~。どこかのクラスは必ずやるよな。おれはどこでもついていくけど、行きたくない人いる?」
「怖いの苦手だけど、文化祭くらいなら大丈夫だよ」
「本当か? 無理はするなよ」
「うん。もしもの時はよろしくね」
「壁りょーかい」
「はぁ」
「心配しなくていーヨ虹夏! ゴーストは私がバスターするから!」
「イライザおばけ屋敷はそういうとこじゃない」
「え?」
おばけ屋敷って言ってるのになんで違うの、みたいな顔してるんじゃないよ。ガンアクションもないから。そういうのをやりたかったら遊園地とかに行きなさい。
「じゃあ連れていってブロ」
「バンドメンバーで行ってみたら?」
「ブロと一緒に行くのが1番楽しい!」
「……そりゃどうも」
「見習ったら?」
「うるさいよリョウ~」
イライザと2人で遊びに行くとお守り要素が出てくるんだよな。犬と散歩してる飼い主と見せかけた、犬に振り回される人間っていうイメージがぴったりになる。
おれももちろん楽しんでる。疲れがいつもの1.5倍溜まるだけだし。初めて2人で遠出した時はヤバかった。電車で寝ちゃって2人仲良く他県に行っちゃった。もう二度とあれは御免だ。
「クラス単位でのおばけ屋敷ですし、決まったルートを通って終わりですよ。肝試しみたいなものですね」
「残念です……。峰打ちだけにしときマス」
「攻撃が駄目ですよ!?」
「おばけ屋敷ってこの人数で同時に入れるのか? 2人か多くて3人じゃね?」
「受付で聞いてみましょう」
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