薄っぺらな嘘
青い海、青い空、世界はこんなに広いのか。
風に運ばれる潮の香りが、非日常感を醸し出す。
オレたち1年は豪華クルージングの旅に出発していた。
これから2週間楽しい旅行を満喫ーーできれば良いのだが。
学校がいつ特別試験を仕掛けてくるかわからない。油断は禁物だ。
「清隆くん、このトロピカルジュース美味しいですよー」
「こっちのココナッツミルクもイケてると思います」
「うん、どっちも美味いな」
現在、屋外のプールサイドでひより、みーちゃんたち茶道部と合流して一緒に過ごしている。
陽射しが眩しいな。あとでサングラスのレンタルをしておこう。
ビーチチェアに身をゆだね、のんびり談笑していると
『うおおおおお!!桔梗ちゃあぁぁぁん!』
遠くで池が叫ぶ声が聞こえてきた。アイツ何やってるんだ。
「あやのこうじぃぃぃ」
今度は須藤が叫びながらこっちへやってくる。
バカンス気分が台無しだな。
「下の名前、教えてくれ」
「?……清隆」
そんなに慌ててオレの名前をきいてどうするつもりなのか。
「ちげぇよ、堀北の下の名前だ」
なんだ、堀北の名前か。学だぞ。
「あー、確かアニスキィ、堀北アニスキィだ」
「アニスキィか、もしかしてハーフなのか、どーりで美人なわけだぜ」
「あーすまん、間違えた。鈴音だった」
「鈴音か!やっぱり日本人だったか、どーりで美人なわけだぜ」
「待ってろよー、すずねええええ」と叫びながら走り去る須藤。
いっそ訂正しないでおいて、堀北に仕留めてもらった方が良かったか。
「Dクラスは賑やかですねー」
今のやり取りを賑やかの一言で済ますひよりも中々だ。
オレには夏の暑さにやられた狂人の類か何かに思えたのだが……
ともかく騒音はなくなったので、ひよりは予想通り持参してきた本を取り出した。
みーちゃんは——何かを探しているのかキョロキョロしている。
「どうしたんだ?」
「いえ、何でもないです」
「そうか、何か手伝えることがあれば遠慮なく言ってくれて構わないからな」
「はい、ありがとうございます」
落とし物か何かかと思ったが、そうでもないのか?
「ふふ、綾小路くんもまだまだですねー」
「どういうことだ?」
本から目を離しひよりが手招きする。
近寄ると、耳元で小声で伝えてくる。
「気になる人を探してるんだと思いますよ」
「青春ですねー」と温かく見守るひより。
気になるなら、その人のところに行けばいいのではないかと思うのだが
そうもいかない事情があるのだろう。
ちょっと気になる部分ではあるがそろそろ昼食の時間だ。
「すまない。食事の約束があるから、今日はこの辺で失礼させてもらう」
「えぇ、また遊びましょうね、清隆くん」
茶道部の面々と分かれ、鉄板焼きの店の前にやってきた。
「やあ、綾小路くん。来てくれてありがとう。アロハとサングラス似合ってるね」
「やっほー、メッチャ楽しんでんじゃん」
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