色褪せない青春の証
櫛田の案内のもと、森の中を進んでいく。
キャンプ地から10分程、歩いたところで目的の場所に着いたのか、櫛田は足を止めた。
位置はキャンプ地と川辺のスポットの中間地点ぐらいか。
「寛治くんたちが伊吹さんを見つけたのはこの辺りだって」
踏みならされた道の途中、特に変わったところはない。
強いて言うなら、他の木よりも一回り立派な大木がそびえたっているぐらいだ。
「それでこんなことを調べさせたんだから、綾小路くんは伊吹さんたちを疑ってるってことだよね?」
「念には念を入れてってやつだな。何もないに越したことはない」
「そうだね。2人の様子を見てたけど、今のところおかしなことはしてないみたいだよ。むしろ積極的に手伝ってくれてるくらい」
オレからの依頼に対して櫛田なりに考えて行動をしているようだ。
「一応おかしなところがないか、周囲を見てみたいんだが……」
「うん、私もそう思ってたところだよ」
ニコッとした笑顔で気持ちの良い返事がくると、心の底から賛同してくれているように錯覚する。
心理学者バーンとネルソンの『意見の類似と好意の実験』が示すように
人は、相手と意見が一致すればするほど好感が増していく傾向がある。
知ってか知らずか、櫛田はそれを対人スキルとして昇華し身につけているのだろう。
あれだけのことがあったにも関わらず、積極的に話しかけてくるなと不思議には思っていたのだが……櫛田はオレを本格的に篭絡する方向で戦うつもりか。自身がこれまで磨いてきた『人に好かれるスキル』を駆使し、オレを堕とす戦略。自分の強みをよく理解している。
櫛田に夢中になる未来か。あり得ないとはわかっていても、本当にそんなことになったのならそれはそれで新しい発見となる。よし、全面的に受けて立とう。
……もちろん下心などはない。
手分けして周囲の捜索していると、大木の根元あたりの土が一度掘り返されたようにやわらかくなっていることに気づいた。
「明らかに怪しいよね」
「そうだな」
掘り返してみると、案の定、何か埋まっているのが見えてきた。
「……トランシーバー、だね」
「そうみたいだな」
「どうしようか、このことみんなに伝えた方がいいよね?」
「いや、ここだけの話にしておこう。下手に広がると混乱の元だ。それにトランシーバーだけではスパイの証拠としては弱い。言い逃れる手段はあるだろう」
「でも、このまま放置してたら何か大変なことになるんじゃないかな?」
連絡手段を用意しているということは、これを使って手に入れたリーダー情報を伝えるか、もしくは合流するためか。どちらにせよ、連絡先はCクラスのリーダーである可能性が高い。泳がせるのも手だな。
「ああ。だからこちらから罠を張っておくことにする。悪いが櫛田、お前の力が必要だ。協力してくれないか?」
「もちろんだよ」
「ありがとう。櫛田は頼りになるな。他の生徒ならこうはいかない」
[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/5
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク