ただの暇つぶし
昨日の逃亡劇の結果、数の暴力に屈したオレは橘勉強会に参加することとなった。
「まずは、基礎学力のチェックですね。確認テストを用意したので解いてみてください」
昨日の今日でテストまで作ってきてくれるとは。
だが、どうしたものか。
ここで満点を取ってしまえば、始まらずして勉強会終了かもしれない。
そんなことになれば、あんなに一生懸命勉強会を開こうとしてくれ
テストまで作ってきてくれた橘に申し訳ない気がする。
ここは先輩の顔を立てるとしよう。
簡単な問題はちゃんと解答し
難しそうな問題をさも悩んで解けなかった風を装って誤答しておく。
入試で全教科50点を取った後の茶柱先生から受けた指摘が活きたな。
これならバレないだろう。
「ふむふむ。基礎はしっかりできているので、あとは応用問題の対策をすればいけそうですね」
どうやらうまくいったようだ。
入試の時もここまで工夫していればあんなことにはならなかったのか。
普通を装うのも楽ではないな。
一通りオレの学力の現状を確認したところで、橘勉強会の日々が始まった。
「では、数学のこの問題から解説していきますよ」
「あー、惜しいですね。ここはこの公式に当てはめて——」
「え~と、ここは何でいえば伝わるか、あ、そうだ。例えば——」
「うんうん、だいぶわかってきましたね。やればできるじゃないですか」
「綾小路くんっ!ついにここまできましたね。おめでとう。今回のテスト範囲ならもうバッチリなはずですよ」
こうして勉強会はテスト前日まで続いた。
橘の教え方はなかなか上手く、それに合わせて問題を解いていく。
間違った部分をできるだけわかりやすく伝えてくれて
上手く解けたら自分のことのように喜んでくれた。
オレは物心つく前からあらゆる教育、実技、テストを受けてきた。
結果が全ての世界で、ただひたすらに能力の向上を目指し過ごしてきた日々。
こんな風に人から物を教わることなどなかった。
最初は逃げ出したが、
今は勉強会が終わってしまうことをほんの少しだけ名残惜しくも感じる。
「綾小路くんは飲み込みが早くて教え甲斐がありました。教える私も楽しかったですよ。あとは自信をもってテストを受けるだけです」
勉強会の締めくくりに、そういってエールを贈ってくれる橘。
「あの、橘先輩、ひとつ質問してもいいですか?」
「何かわからない問題がありましたか?」
「いえ、テストとは関係ないんですが、なぜこんなに面倒をみてくれたのかなと気になって」
最初は生徒会のメンツのため、もしくは優秀さをアピールして
マウントを取りたいのかと思ったのだが……
ここ数日一緒に過ごしてみて、そうではないことはわかった。
「大事な後輩の面倒をみることに理由がいるんですか?」
当然のことをしたまでだと、なんでもないことのように答える。
「ですが、強いて言うのであれば、会長が認めた綾小路くんにちゃんとした実力があることを証明したかった……のかもしれません」
先日生徒会メンバーに紹介された時のことを思い出す。
Dクラスということもあり、周りからは懐疑的な目を向けられていた。
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