ハーメルン
クズな自分を愛してくれたあなたへ
7 肯定

 時間的にまだかと思っていたが、予想以上に時間が経っていたようだ。夜のとばりは既に降りている。普段ならば帰ってこようがそうでなくても部屋に籠っていればいいだけなのだが、今日はそうも言っていられない。寝たい。

あいつらが明莉に向ける感情が、俺へのものと同じ無関心であればそれがいい。いや、友好的に接してくれるのであればそれが一番いいのは当然だ。だが、そんなことがあるはずも無い。俺はよく知っている。外の人間では無い者への対応についてを。

「どうやら、帰って来たようですね。お兄様のような素晴らしい人を冷遇した人達が。ですがここの家主です。挨拶をしに行かなければいけません。すみませんが、また後で話をさせてください」

そう言う彼女は変わらぬ無表情ではあったが、若干多い瞬きや目元の震えが見られ、心なしか緊張しているような気がする。やっぱり、不安だ。本当は話したくなんか無いんだろうけど、俺が行くしかない。若干棘のある発言も一種の虚勢なのだろう。

「全然気にしてないってわけはないけど、大丈夫だから。一緒に行くよ。俺から紹介するから、明莉は俺の後ろにいて」

「ありがとうございます。しかし、失礼にならないでしょうか。お兄様にさせてしまって」

俺にも正解は正直よくわからないが、何にせよ早めに行った方が良いのは間違いないだろう。明莉にはもうこれ以上の悪意に晒されて欲しくない。しかし急がなければ。話す時間が惜しい。

「いいよ。大丈夫だから。ほら、早く」

その場から立ち上がり玄関まで進む。後ろから聞こえるぺタペタと言う足音からわかる通り、ちゃんと着いて来ているようだ。さて。そこまで広い家でも無いのですぐに目的の場所に着いた。居るのは母だけか。二人いたらまた喧嘩が始まったかもしれないから助かった。

母はどうやら玄関の掃除をしているようだった。幸いと言っていいのかわからないが、俺たちのことはまだ気づいていないようだった。

「母さん、おかえり。あのさ」

「後にしてくれない。今何してるか貴方ならわからない?あと、このきったない靴何?玄関が汚れてるから処理してるんだけど。邪魔するならさっさといなくなって」

しまった。すっかり忘れていた。時間があった時に掃除しておけばよかった。思い返せばボロボロの黒いローファーに泥とかが付いていた気がする。雨の日だったし。しかし、相変わらずの反応だ。俺の事を見向きもしない。

「汚してしまってすみません。いや、何というか土砂降りで雨に濡れちゃったから、家に入れて上げてたんだよね」

「あー、そう。見慣れない靴があると思ったら、そういうことだったの。紹介しなさいよ。女の子かな?隠れてないで出てきていいから」

振り向きこちらへ視線を這わせてくる。今明莉は俺の後ろに隠れてもらっている。今は外面モードになっているのでそこまで危惧しなくていいだろう。本人もそう言ってるし。

「もしかしたら知ってるかもしれないけど、うちに来ることになった、ほら、親戚の」

そこまで言って明莉にバトンを渡す。俺の横に身体を移動させる。明莉を見た母の反応は、うん?驚きだろうか。

「あ、あの。私、宮崎明莉と申します。週末からというお話だったはずなのにいきなり来てし」

「は?え?お前なんでいるの?死んだんじゃないの?てか死んだだろ?なんで?」

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