#2 名門
2007年 7月 ◇日
意外にも鍛錬は順調だ。
見られていない時を見計らうのが難しく、前に日記を書いてから1年近く経ってしまった。流石は名門、使用人か家族親類の誰かが常に俺を見ている。事故の危険がなくて有難いやら、気が抜けないやら。
この1年弱は父に師事して専ら座学と呪力操作に費やした。あまり激しく体を動かすのは成長に差し障るから、という父の方針による。
そんな父曰く、呪術師とは個人で完結した生き物である。術式とは各人が持つ「世界」であって、呪術の極致たる領域などはその最たるものであるとのことだ。それ故、交友や社会性の獲得に非術師ほど重点は置かれないと。
7歳の息子に掛ける言葉とは思えないが、ともかく外に友人を作る暇があったら内なる呪力と対話しろという意味だと理解した。そう言えば原作にも「呪術師には珍しいネアカ」みたいな台詞があったな。
その一環か、俺は7歳になっても小学校に通っていない。どうやら呪術高専はともかく、そこに入るまでの小学校と中学校はすっ飛ばすつもりのようだ。何とか言う義務に反しているが、まあ術師の家柄として融通が利くのだろう。
やや不健康な気もするが、今の俺は術師であり、一般人に見えないものが見えている訳だ。俺には前世の記憶があるから「普通」の真似もできるだろうが、そうでない術師の子供がある日非術師の中に放り込まれて、まともな人間関係を構築するのはかなり難しいだろう。
無邪気に「それ」を口や態度に出して、よくて気味悪がられて遠巻きにされるか、悪ければ先生から頭の病気を疑われて面倒な事態になるのがオチだ。特に俺のように強力な術式と大量の呪力を持っていると、ふとした拍子にクラスメイトを殺してしまいかねない。
そう言う訳で、一般の学校には通わせないと決まったようだ。代わりに一般教養を学ぶため「話の分かる」家庭教師が1人ついている。我がことながら豪勢な……。
因みにこれを執筆している7歳現在、俺には1つ下と4つ下に弟がおり、つい最近妹が産まれた。子だくさんである。本人の意志と言うよりは家全体の方針に従った結果のようなのが少し引っかかるが……まあ、お互い不干渉というかビジネスライクに見えて仲は良い両親のことだ。上手くやっているのだろう。
弟たちも全員学校には行かないのか、と父に聞いてみたが、保育園/幼稚園は全員飛ばす(術式を自覚すると同時に使ってしまう可能性があるため)が、相伝持ちかつ才能に恵まれているのでない限り、普通に小中高大と進学させるそうだ。そう言えば、才能がなければ堅気の仕事に就かせると前に言っていたっけ。
思い返すに、小さい頃使用人が何人も付いてた割に両親と会う機会が少なかったのは、いつ術式が暴発してもいいようにという監視・隔離の意味もあったのか。術師の家も大変だ。
……話が脱線している気がする。元はそう、鍛錬の中身について書くつもりだったんだ。
家庭教師がついていると言ってもあまり勉強はせず、ほとんどの時間を呪力操作の練習に費やしている。あくまで術師としての能力が最優先で、学力は本当に最低限で構わないらしい。運動部で実績を残していると成績が悪くても許されがちなのと同じ理屈だ。
俺としても今さら小学生の読み書き計算を習い直しても仕方ないし、うっかり習っていない計算法やら単語やらを持ち出して怪しまれたら困るので渡りに船である。
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