#3 理由
特級術師とは、呪術界における実力評価に収まらない術師の称号である。
選定基準は「単独での国家転覆が可能であること」。現状では3人がこの階級に割り振られ、主に1級以上の呪霊討伐や、大規模あるいは前例のない異変の調査、強力な呪詛師の討伐等々……要は一級では心もとない任務を丸投げされる地位である。
順当な出世コースである1級までの呪術師と違い、特級は常識の外側におり本質的に制御不能とされる。というか、常識の範疇に収まっているうちは特級の判定は下らない。
故に呪術界はその存在を快く思ってはおらず、術師として有用であるうちは特記戦力としてこき使われるだけでいいが、少しでも不安要素があれば、待っているのは生涯にわたる幽閉か、即時の秘匿死刑執行。
国法では裁けない呪術師にとって、呪術規定とそれに則って処分を下す呪術総監部だけが行動を律する規範となる。
『緩めの封印指定みたいなモンだよね。何年か前にアニメやってたっしょ、ステイナイト』
とは、現代最強の術師・五条悟の言である。
(また変な情報を仕入れて来て……)
親友の軽口にあきれ顔で返した時のことを思い出しながら、特級術師・夏油傑は送迎の車に揺られていた。
東京から飛行機で福岡空港へ。そこから送迎の車でおよそ1時間。地方都市の商業ビル群が国道沿いのショッピングモールや郊外型の大型店舗になり、瓦屋根の家と畑ばかりになり……やがて、山のふもとに場違いな豪邸が現れた。
運転役の補助監督が窓を開け、純和風の塀に似合わない最新式インターホンに2、3言交わすと、アルミ製のゲートがひとりでに開いていく。
夏油と補助監督を乗せた黒塗りのセダンはそのまま門を通過し、敷地内、砂利敷きの駐車場と思われる一角に停まった。
「着きました。この家の主、空閑家の方々が今回の依頼主となります。彼らと共闘して、特級と推定される呪霊を無力化してください」
祓うのではなく、無力化。
呪霊を取り込み、自ら使役できる「呪霊操術」の使い手である傑にとって、呪霊には祓う以外の手段がある。それを把握する上層部は、むしろ強力な戦力となりうる高位の呪霊によく傑をぶつけていた。
「了解しました。運転ありがとうございます」
彼ら特級術師は、現状3人のうち五条悟と夏油傑は呪術高専東京校に在籍、残り1人は海外を放浪中。
故に、この二人で日本中の特級案件を片付けて回る必要があった。
(これが九州イチの名門……悟の実家と似てるな……)
この日傑が訪れたのは北部九州に根を張る呪術師一族、空閑家の本邸。一般家庭出身の傑から見ると、もはや個人宅ではなく高級旅館のようである。
西日本、特に九州から中四国西部および島嶼部の呪霊対策を取りまとめており、状況に応じて今のように高専に協力を要請することもある……とは、道すがら補助監督に聞かされている。
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