ハーメルン
【完結】生意気な義妹がいじめで引きこもりになったので優しくしたら激甘ブラコン化した話
18.私だけのお兄ちゃん(中編)

「けほっ!けほけほ!あーしんど……」

あの大雨の日から2日後の月曜日、お兄ちゃんは風邪を引いてしまった。

「やっぱ雨にうたれたのが良くなかったのかなあ……」

ベッドで寝転び、天井を虚ろな眼差しで見つめるお兄ちゃんを、私はそばで見守っていた。

「お兄ちゃん……」

「美結、あんまりそばに寄ると風邪うつしちゃうから、けほけほ!うう……自分の部屋に戻ってなよ」

「ううん、そばにいたい。私……看病するから」

「美結……」

「お熱測るね」

お兄ちゃんのパジャマのボタンを、少しずつ外していく。そして、脇のそばに体温計を差し込んで、熱を測った。

「38.6……。結構あるね」

「学校は無理か……」

「今日はファミレスのバイトもあったでしょ?学校とバイト先に、どっちも私から休むこと連絡しておくから」

「ごめ……ありがとう……ごほごほっ!」

「ほら、お兄ちゃん。ゆっくり休んで?」

お兄ちゃんの頬に、軽くキスをした。そしてお部屋を出て、スマホでお兄ちゃんの高校とバイト先と、両方に連絡した。

「あの、渡辺 明の妹ですが……今日はお兄ちゃ、じゃなくて、兄が体調を崩してしまったので、お休みさせていただきます。はい、すみません、よろしくお願いします」

どちらにも連絡を終えた後、私は台所に行き、お兄ちゃんのためにお料理を始めた。

「何がいいかな~?やっぱりお粥かな?あ、そう言えば卵もあったはずだから、それを使って……おネギも乗せたらばっちしかな?」

卵入りお粥作りにいそしむ最中、私はどこか……いつもより上機嫌だった。ふんふんふふん♪なんて鼻歌も歌ってたし、いつもより独り言が多かった。

なんでだろう?と、ネギを刻みながら思っていたけど、すぐにその答えは分かった。

「今日は……お兄ちゃんがおうちにいてくれる」

そう、本当はこんなこと思っちゃダメなんだろうけど……いつもなら学校に行ってていないお兄ちゃんが、今日はおうちにいてくれる。

いつも支えてくれてるお兄ちゃんを、今日は支える側になれる。

風邪を引いてるお兄ちゃんの気持ちを考えたら、ウキウキなんてしちゃいけないって分かるけど、でもやっぱり……いつも寂しかったもん。お昼の間、しんとした家の中で独り、ご飯を食べる寂しさは……やっぱりいつになっても慣れない。

時々、ママやパパがいることがあるけど、最近は挨拶すらしない。目も合わせないようにするくらい、私たちの間には、温度がない。

でも、もうそれでいい。あの人たちがいるからって、寂しさが紛れるわけじゃない。向こうも私たちと交流する気がないんだから。

(ママはもう少しお節介してきそうな気がしてたけど……お兄ちゃんが花瓶を割った時のが効いてるのかな)

博美ママの命日以来、私もお兄ちゃんも、親を無視し続けた。だって、気持ちを無視してくるような親のことを、大事に想う気すら起きない。それ以来、ママもごちゃごちゃ言うことはなくなった。その代わり、家にいない頻度がかなり増えた。

今ではもう、ほんとに私とお兄ちゃんだけの家みたいになってる。だけど、それでも私たちは、この家を出る。

(本当の意味で、ちゃんと自由になるんだ。そして……お兄ちゃんと一緒に暮らして、子どももできたら……きっときっと、暖かい家族ができるはずなんだ。私は、そんな家に帰りたい……)

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