ハーメルン
【完結】生意気な義妹がいじめで引きこもりになったので優しくしたら激甘ブラコン化した話
6.手紙


……俺は、美結と奇妙な交流を始めた。

ビニール袋の中にメモを入れて、一言二言を交わし合うという交流。

そんなのLimeでやった方が、早いし楽なんだろうけど、なぜか俺たちはこのアナログなやり方を続けた。Limeで会話するよりももっと……美結の本音を聞けた気がした。



『薬のお金、ありがとう。頬は大丈夫か?』

『うん』

『それは良かった。その頬は、何かにぶつけたのか?』

『そんなとこ』

『そうか、気を付けなよ』

『うん』

『そう言えば、美喜子さんたちはまたしばらくいないみたいだ。俺は自分の分のご飯を作るつもりだけど、美結はいるか?』

『うん』

『分かった。今日は焼きそばにする』

『うん』

『今日はロールキャベツに挑戦。初めて作るから緊張する』

『ちょっとお肉、生だった』

『すまん!また挑戦するわ』

『うん』

『今日は鮭!たまには魚も食べないとな』

『魚、嫌い』

『でも全部食べてたな』

『作ってもらったから』

『そうか』

『うん』


家の中で顔を合わせても、全然会話しない。だけど、メモになると、なぜかお互いに拒絶することはなかった。

家の中は、ほとんど俺か美結しかいない。たまに夜中に、美喜子さんや親父がテレビを見てたりする音が聞こえる程度だった。

なのに、不思議と寂しくなかった。今日は美結のために何を作ろうかな?とか、そんなことさえ思う日もあった。

日が経つにつれて、美結は俺に対してあまり生意気なことを言わなくなった。メモのやり取りを始めてから、妙に大人しいというか……むしろ、若干暗くなったような印象さえ受けた。


『美結、なんかあったか?』

『なんかって?』

『最近、ちょっと元気なさそうだから。お節介ならごめん』

『うん、お節介。心配しなくていい』

『そうか、すまん』

『うん』

『まあ、なんかあったら言ってくれ。俺でよければな』

『ありがとう』


「……ありがとう、か」

初めて彼女から聞いた、ありがとうという感謝の言葉。

ご飯を作った時も、薬をあげた時も、ありがとうとは言われなかった。それが今……。

「………………」

だんだんと心の距離が縮まってることに対しての喜びと、理屈のない……妙な胸騒ぎを同時に宿していた。

そして、その胸騒ぎは、ある日はっきりとした形で的中した。


「ただいまー」

学校から帰宅すると、玄関には既に美結の靴があった。美結の中学校の方が俺の通う高校よりも近いので、だいたいいつも美結の方が帰りが早い。だから、今日もいつもの通り美結の帰りが早かっただけ……なのだが。

靴の脱ぎ方に、違和感があった。靴を揃えてないというのはよくあるが、片方の靴が裏向きになり、もう片方の靴からかなり離れて放置されていた。

まるで、大急ぎで家に帰りつき、靴を気にかける余裕がなかったかのような……


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