#最終話 星を指輪に
「……あークソ、何も手につかねぇ」
仕事を始めてから既に3時間近く経っているというのに1行も進んでいない記事に嫌気がさし、乱暴にパソコンを閉じる。
どうにかこうにか帰宅しシャワーを浴びてインスタントの粥を食べ、俺の体調はある程度回復していた。
仕事でもして気を紛らわせようかと思ったが、一向に進む気配がない。
集中出来ない理由なんて分かりきっている。今星歌先輩と一緒にいるであろう男のことだ。
あの場にあれ以上いたら精神がどうにかなってしまいそうで逃げてきたが、家にいても結局同じことだった。
時計を見ると、もう日を跨いでしまっていた。
「酒でも飲んで無理矢理寝るとするかな……」
そう言いながら立ち上がると、パソコンの隣に置いたスマホが震えた。
発進先は虹夏ちゃんだった。
#最終話 星を指輪に
「もしもし?遅くにどうしたの?」
営業用の声で電話に出る。
今の精神状態で、虹夏ちゃんの電話を木村日向という人間で出ることは出来なかった。
『ねぇ。お姉ちゃんに何したの?』
静かな声だったが、そこには明確な怒りの感情が含まれていた。
とても、天真爛漫な虹夏ちゃんの声とは思えない。
「何って……何で?星歌先輩帰ってきたの?」
『……え?どういうこと?』
虹夏ちゃんの声が、怒りから困惑に変わる。
「えっと……とりあえず訊きたいんだけど、星歌先輩は帰ってきた?帰ってきたなら、何時頃に帰ってきた?」
『今さっきだよ。12時を過ぎて15分くらいじゃないかな』
0時、か……一番微妙なラインだな。
最低な推理と分かっていながら、俺は星歌先輩が男とどこまで済ませてしまったのか考えてしまう。
俺と別れたのが6時頃だから、0時というと何かあってもおかしくはない時間である。
むしろ、やることやったと考えるべき時間なのかもしれない。
『待って?日向君、お姉ちゃんと一緒にいたんじゃないの?何で日向君がお姉ちゃんの帰宅時間を把握してないの?』
意味が分からない、と言いたげな虹夏ちゃんの声。
「ん、映画を観たまでは一緒にいたんだけどね。夕飯を食べに行く途中で星歌先輩の昔のバンドメンバーと会って……」
そこで一度言葉を区切る。
さて、ここからどうやって説明しようか。
まさか『トラウマを刺激されて逃げてゲロ吐きました』なんて虹夏ちゃんに言える訳がない。
「……会って、星歌先輩も色々話があるだろうなって思って、俺は先に帰ってきたんだよ」
嘘は言っていない。
だがそれを聞いた虹夏ちゃんは、スマホの向こう側で黙りこくってしまった。
「……虹夏ちゃん?あれ、電波悪い?もしもし?」
『バカーッ!!!』
突然の怒鳴り声に、耳がキーンとなる。
「ば、馬鹿って……」
『バカだよ、大バカだよ!?何でお姉ちゃんを放ったの!?』
「いや、放った訳じゃ……」
放った訳ではない。
他の男に……預けただけだ。
『ねぇ日向君。日向君は今日、誰といたの?』
「え?」
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