ハーメルン
危険極まりないダンジョンでソロを強いられるのは間違っているにちがいない
何を言っているんだこいつは
◆
ロキファミリア団長、フィン・ディムナは勇敢にして冷静、そして聡明な指揮官である。
何かと癖の強い第一級冒険者たちを統率し、鼓舞するその手腕は神々をして見事と言うほかないだろう。
此度、ファミリアが出くわすこととなったアクシデント。
率直に言えば、彼の手腕にかかればさほどの窮地ではない。
未知の魔物の軍勢はたしかに脅威だ。負傷者も多数抱えている。
しかしながら、犠牲者は出ていない。
彼の指揮能力の高さはもとより、彼に付き従う団員たちの高い能力と士気、奮戦がそれを実現しているのだ。
とはいえ、ダンジョンというものは悪辣だ。
冒険者を苦しめることにかけて枚挙にいとまがない。
フィンにとっても予想外であったのは軍勢の規模。
51階層への通路から現れた敵は、初めに殲滅したものだけではなかったのだ。
崩落した通路、その瓦礫を溶かし尽くす波のような腐食液。
現れる数多の巨体。
敵の第二陣は、第一陣の規模を上回っていた。
それでもなおフィンの冷静さを奪い取るには足りない。
即座に陣を再構築。時間こそかかれど着実に敵を殲滅し、必ずや一人の犠牲もなく撤退を。
我らはロキファミリア。道化の神の眷属たち。
如何なる舞台であろうとも、優艶に踊ってみせよう。
「だ、団長!ご報告が!」
「どうした。49階層への通路方面からの伝令だな。手短に言え」
「......き、救援が」
「なに?」
「救援要請を出していた、"
武鬼
バトラ
"殿が到着致しました!」
......。
.............?
「え、はやくない?」
これはさすがに冷静でいられなかった。
◆
「こうして話すのは初めてかな。
僕がロキファミリアの団長、フィン・ディムナだ。
よく来てくれたね、ロン・アライネス。君の勇名はかねがね。
救援要請に応えてくれたこと、心から感謝する」
受けた印象はさながら悪鬼羅刹の類であった。
全身を赤く染めたその男は超然とそこに立っていた。
重厚なプレートメイルに染み付いたそれはおそらく血であろう。魔物の返り血か、負傷か。いずれにせよ壮絶な道のりであったことを想像させる。
ところが、男には傷一つもなかった。それだけならばまだエリクサー等の高位の回復薬を用いたのだとすれば理解できる。
理解できないのは、ダンジョン深層にいたってなお息切れひとつ起こしていない慮外のタフネスであった。
ロン・アライネスに対して救援要請を発したのは単なる保険と、思いつきのようなものであった。
50階層にて最初に未知の魔物と遭遇した際、フィンは敵戦力の分析を迅速に済ませ、別のことにも並列して思考を働かせていた。
オラリオにおいて最強の冒険者は誰か?
この問いに対して、冒険者ならば誰もが「自分だ」......と答えたくなるものであるが、それを声高に宣言するには憚られる規格外の存在が、二人いる。
一人は"
猛者
おうじゃ
"。言わずと知れたレベル7。ロキファミリアに匹敵する派閥を形成するフレイヤファミリアに属する最強の冒険者。
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