ハーメルン
待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!
舎弟を得た。





 儂の性自認は男じゃ。いや、体が女なのは分かっておる。
 この時代に産まれ直して、早十四年。着る服は男性着物。臙脂(えんじ)色のが好みなんじゃ。身に纏うなら着物か浴衣か、袴が良い。

 だからのぅ。

 儂、これ着るの好きじゃないんじゃよ。
 窮屈なんじゃて、制服なる衣は。ぶらうすとか言うのはしょっちゅうぼたんを掛け違えるし、りぼんは首が苦しい。何でひらひらした紐を首に巻かねばならんのだ。すかあとは、もう少し緩ければ文句無いんじゃがのぅ。
 あとなぁ。ぶらじゃあと、しょおつな。嫌いじゃ。とらんくすは好きじゃ。なのに穿くことを許されぬ。一度とらんくすを穿いて学校に行ったら、被身子が恐ろしい形相になった。以来ぱんつは女性用のを穿かされておる。毎晩脱がされてもおる。……やはりぱんつは好きではない。こう、肌にくっついてくる感じが不快で……。
 
 もう三年目になるのに、制服には慣れん。高校は着物を着て通えるところが良い。中学は……あと一年は我慢しておくか。

 はぁ……。今日も朝から冷えとるの。空気が冷たい。頬が裂けそうじゃ。制服の上にだっふるこおとを着ても寒さは無くならぬ。暖房が効いた家から出ると、体が冷える。赫鱗躍動で体温上げるか? いやしかし、寒いからなんて理由で術式を使うのも面倒じゃ。……我慢するしかないのぅ。さっさと冬、終わらんかの。季節は春か秋だけで良くないか?
 それと夏。貴様は早急に消えろ。毎年毎年、暑すぎるんじゃ。脳が茹で上がるわ、まったく。

 それはさておき。儂は引っ越しに伴い転校した。今日から折寺中学校とやらに通う。二年の二月末に学舎を変えるのは、何とも言えぬ気分じゃの。春休みまでそんなに日にちが無いぞ? もう春から登校で良くないか? こんなに寒いんじゃから。

「円花ちゃん、ハンカチ持ちました? ティッシュは? 忘れ物は無い?」
「持っとるぞ。そんな心配せんでも用意ぐらい一人で出来るわ」
「ポンコツが何言ってるんですか。円花ちゃん、自分がとっても駄目人間だってそろそろ自覚して欲しいのです」
「おい。儂はぽんこつではない」

 ぽんこつなどでは無いが? 身の回りの事は母と被身子がやってくれるからやらぬだけじゃが? と言うか最近は、儂が何かやろうとすると直ぐ止めに入るじゃろ貴様。

 そんなに洗濯機を泡まみれにしたのがいかんかったのか?
 それとも綿飴を作ろうとして、床に砂糖を引っくり返したのが悪かったか?
 珈琲の苦さと熱さに驚いて机にぶちまけたのが気に食わんかったのか?
 もしやこの間、朝まで帰らなかったことをまだ怒っておるのではあるまいな?

 ……解せぬ。真に解せぬ。誰にだって失敗はあるじゃろうて。そこは寛大な精神で受け止めぬか。

「あら、被身子ちゃんおはよう。そっちの子は……」

 今朝は臙脂色の着物を着た被身子に手を引かれながら家を出ると、ごみ出しに出て来た向かいの家の者と目が合った。そしたら話しかけて来た。そう言えば初対面じゃの。儂、この家に越してきてから外に出たのは夜中だけじゃし。引っ越しした際のご近所挨拶は、迷子になるから駄目と連れて行って貰えんかった。これも解せぬ。

 ……しかしまぁ、どんな髪しとるんじゃそれ? きらびやかなのは良いが、何故そうも尖っておる。と言うか大人の女性があんな髪型をして良いなら、儂だって髪ぐらい自由にしても良いじゃろうが。何で儂は髪型を自由にする権利が無いんじゃ……?

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