ハーメルン
待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!
新居を得た。
新居を得た。儂の両親が。つまり廻道家は引っ越す。引っ越すのじゃが……被身子をどうしたもんかの、とは思う。仕方ないことなんじゃよ。父と母、揃いも揃ってこの冬に転勤じゃし。であればこの引っ越しは、
真
(
まこと
)
に仕方ない。
両親は儂にこの家に残れと言うんじゃが、それは却下した。この家の周りに呪霊はおらんが、別の土地に引っ越したら呪霊はわんさか居る筈じゃ。引っ越し先で母が気絶するのは心臓に悪い。じゃから儂が祓う。なら、向こうに引っ越すしかあるまい? どこじゃっけ? 静岡とやらの端じゃったか?
まぁ場所は良いんじゃ場所は。それにまだ見ぬ呪霊の中には骨のある奴がおるかもしれん。あー、死力を尽くして呪い合いたいのぅ。儂、もうわくわくじゃぞ。
ただ、捨て置けぬ問題がひとつだけあるんじゃ。被身子の事じゃ。こやつを一人にするのは憚られる。だからと言って我が家の新居に連れていくわけには行かんじゃろ?
何より儂が引っ越すと聞いて、どんな反応をするか分からん。しかし引っ越しを黙っておくことは出来ぬ。なので儂は意を決し、母と談笑しながら夕食を作っとる被身子を部屋に呼び出した。非常に言い出し辛い気持ちがあるのじゃが、言わねばなるまい。
だから伝えたんじゃ。廻道家は引っ越すぞと。
「あ、知ってます。とっくに輪廻ちゃんから聞いてるので」
「……は?」
……は? とっくに聞いた? 母から?
「だから、円花ちゃんが静岡の端っこに引っ越すのは知ってます。別にトガの事は心配しなくて良いのです」
「いや……儂が居なくなったらどうするんじゃお主。ほら、血とか諸々……」
渡我家は親子の間に大きな断絶がある。そんな場所に被身子を戻すのは気が引ける。血の問題もある。親とは家庭内別居でもなんでもすれば良いかもしれぬが、こればっかりはどうしようもない。
こやつは、したい事を我慢する人種ではない。したくなったらするのだ。お陰で何度切り刻まれたか覚えておらんし、幾度同衾したか分からん。
そんな被身子を一人にする?
……てれびのにゅうすに、この辺りの学生が猟奇殺人を犯したなんて速報が出てもおかしくないぞ。
「んふふっ。まーどか、ちゃんっ」
「おぐっ」
おい待て。人が心配しているのに急に抱き付くな。全体重を預けてくるな。流れるように和服の襟に手を突っ込んで、儂の肩を撫で回すな。何をそんなに嬉しそうにしとるんじゃお主はっ。
「私の事、心配してくれて嬉しい。でもほんとに大丈夫なのです」
「だから、どこが大丈夫なんじゃ?」
「だって、志望校を変えました。円花ちゃんの引っ越し先周辺にある学校に」
……何じゃと?
「おい待て貴様。今、何と言うた?」
「だから……、円花ちゃんの新居周辺にある高校を、志望校にしたのです。ね? 大丈夫でしょう?」
大丈夫でしょう? ではないっっ!!
何を考えとるんじゃこやつ!? もう冬じゃぞ!? 最後の追い込み期間だぞ!? なのに志望校を変えた!!? 気でも狂っとるのか!!?
あれか、受験のいろおぜとか言うやつか!! よし、早急に
反転術式
(
はんてん
)
を外に出力出来るよう鍛錬しようぞ!
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