『シャドウガーデン』結成
あの廃村で悪魔憑きの腐肉塊を手に入れてから、約一月。僕は予想外の出来事に頭を痛めていた。
今までは順調だったのだ。魔力を流し込み、自身の魔力が肉体に与える影響を観察する。会話することができず、五感と体内魔力による観察結果から推測するくらいしかできなかったが、言語能力が残っていても肉体をいじった痛みとかでうるさいだけかもしれないので不満はなかった。
だが魔力制御能力が上昇し、魔力暴走を制御できるようになった途端、腐肉塊が金髪美少女エルフになるのは完全な予想外だった。かろうじて人型の腐肉が健常な肉体になったのは、夢としか思えなかった。
現実に目から背けたいと思いながら、彼女が入っていた檻を覆っていた覆いの布を投げ渡す。体が戻ったことに呆然としていた彼女も、自身が全裸なことに気がつき慌てて体を隠す。
そこからは自己紹介だ。僕はこの辺の領主カゲノー男爵家の長男、シド・カゲノーです。両親のオトン・カゲノーとオカン・カゲノー、姉さんのクレア・カゲノーの四人家族です。
そうやって話し合った結果、悪魔憑きであったことが知られているから故郷には帰れないし他に頼る当てもない、助けられた恩は返したいと言われた。流石に行き先のない少女を何の当ても無く放り出すほど、僕は良心を失っていない。
えっ、良心があるやつは人体実験をしない? 返す言葉がないが、結果的に彼女が助かったし、腐肉は人体じゃないからセーフ。
カゲノー家に連れ帰ってもいいが、ブラコンの姉さんをはじめ、みんなを納得させるような言い分ができるか、そもそもパッとしない長男がこんな美少女エルフを家に住ませたいと言って受け入れてもらえるか、と懸念が多い。最悪は事情を知らない父さん達がエルフに話をした結果、彼女が元悪魔憑きだとバレることだ。
その場合、張本人の彼女や悪魔憑きを治した僕、カゲノー家がどんなことになるかわからない。
悪い意味で不確定要素が多すぎて、危険すぎる。考えた末、彼女が一人でも大丈夫になるまではこの廃村で匿うことにした。幸い将来に備えた盗賊狩りで得た金がここだけでも五百万ゼニーはある。彼女一人なら当分養う程度はできるし、独り立ちできる程度になったら彼女も盗賊狩りをしながら生きればいい。
彼女もその決定を受け入れたところで、ふと彼女が自分の名前を話していないことを思い出した。
尋ねると一度だけ名前を教えてくれた後、今までの名前を名乗るのは危険だから新しい名前をつけて欲しいと言われた。
少し考えた後、フレイヤ・アールブという名を与えた。意味を聞かれたので知る者がいない豊穣の女神の名だと答えた。異世界の女神の名前なんて知らないから別にいいよね。
それからは昼は姉さんや両親と魔剣士の訓練や貴族の勉強に取り組み、晩はフレイヤにさまざまな事を教えた。魔力制御・身体強化技術から魔力による短期間睡眠・睡眠学習法などの応用、スライムゼリーによる戦闘服と武器の作り方、そして剣術と格闘術、気配操作など前世で陰の実力者になるために培った技術をほとんど教えた。偶にはフレイヤにせがまれて一緒に寝て、僕の不在がバレる前に急いでカゲノー家に帰ったこともある。
そんな生活を続けてしばらく、フレイヤは元々のセンスもあったのかすぐに幾つもの技術を習得して、もう独り立ちしても大丈夫だろうと僕は思った。
僕はフレイヤにもう独り立ちできるだけの力がついたことを告げ、何か困った時は僕のところに戻ってきてもいいと告げた。
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