ハーメルン
神羅計画-Lekage‐ 不死を求めた老獪の不始末で死にかける学生達
漏洩

「ずっとずっと好きでした‼ 魅傀と結婚して家族になって、一緒に暮らして下さいにゃ!子供は一緒に炬燵を囲めるくらい欲しいです‼ 魅傀をお嫁さんにしてください‼」
 顔を真っ赤にしながら、一声でそう言い切った犬飼魅傀の目尻には涙が溜まっていて、よっぽど勇気を出したのだろうことが伺える。
 そんな乙女の告白を受けた境夜は。
 「…………………………」
 (驚いた。この日本にいない三か月の間に、俺の知らない日本語の言語形態と脈絡が構築されている……)
 あまりにも脈絡の無さすぎる告白(ことば)を向けられて、混乱していた。
 (なんだ? 何が起こった? 分からない。何で俺はカレー作ってたら突拍子も無く初対面も同然のネコミミ少女に愛の告白を受けているんだ? そりゃあ、半年前に会ったのは覚えているし、少し可愛いと思ったのも事実だ。だが何故だ。つまみ食いしたカレーが美味かったのか? いやそれにしては鍋の蓋だって空いてない。なにせこいつは香りも逃さずに熟成させるためのオーダーメイドだ。開け方を知ってるか、ちょっと人類の範疇を超えた握力でもない限り開けられない金庫みたいな鍋だ。開けられるはずもない。なら胃袋を掴まれたわけでもないこの女性が俺に告白しているのは一体どういうことなんだ⁉)
 表情には一切出ていないが、今の境夜の心境をデフォルメすれば、ぐるぐるのお目目か、宇宙(コスモ)を感じる猫のようになるだろう。
 (なんだ、なんなんだ。良く分からないが取り合えず誰か助けて欲しい。戦場で爆撃や血に濡れていた時だって微塵も湧かなかった逃げたい感情が押し寄せて止まらないんだが)
 その気になれば一秒でカレー鍋持って逃亡出来る身体能力は確実に有していることは今さっき証明されたばかりだ。出来る、出来るさ。出来ないはずがない。どんな危険な状況であっても神条境夜は常に自身の判断で最良と思える選択肢を選んで実行してきた。どんな障害も障害になりえない、人類史で最も進化した新人類。だと言うのに⁉
 「……にゃあ」
 今この絶対の巨人を足止めしているのは、今にも心臓の鼓動だけで破裂してしまいそうなほど緊張して俯いているネコミミ娘だ。手にも足にも自分を害するものは何もない非力な少女。それが何故こんなに自分を縛っているのか?分からないまま、神条境夜は固まっていた。
 「…………」
 「…………にゃあ」
 不安そうに鳴いている彼女を、境夜は視線も外せずに見つめている。そして、俯いていた少女は、とうとう顔を上げて、境夜を見上げた。それでも、何も言ってはこない。ただ境夜の返事を待つつもりなのだろう。急かすでも、卑屈になるでもなく、自分に今出来る精一杯が、ただ目の前の男の頭の中の整理が付くのを待つだけと信じて。
 そして、永遠にも感じた約一分程度の時間が過ぎて、ようやく境夜が口を開いた。
 「…………俺は、今やらなきゃならねえことがある。だから、色恋に割ける時間はねえんだ。気持ちは嬉しいが」
 「魅傀のことは……嫌い?」
 「ぬ……」
 (そんなわけが無い。何もしていないのに周囲から怖がられて、武器を向けられたり逃げられる人生を歩んできたオレが、一緒にいたいと言ってくれた相手を嫌う理由など、どこにもない)

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