ハーメルン
かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~
賞金首:宝石人形の傾向と対策②
欲深き者の隠れ家にて
「店長、日替わりランチを二つ」
「お願い致します」
「今日はまた随分ぼっろぼろだな……埃はちゃんと店の外で払え」
宝石人形との戦闘から無様に撤退したウル達は、そのまま既になじみとなった店に足を運んでいた。どれだけの失敗を重ねようが、どれだけ思い悩もうが、心身の健康が最低限保たれている限りにおいて腹は減るのだ。
「ま、メシが喰いてえならまだまだ心配はいらんか」
「心配はしてくれ。大分行き詰まってる」
「この店にも大なり小なり行き詰まってる奴はおるんでな。簡単に贔屓はできんな。肉は一枚増やしてやる」
「ありがとうございます。店主様」
なんだかんだと良くしてもらっている事に感謝しながら、ウル達は疲弊しきった肉体にエネルギーを補給すべく、目の前の食事にがっついた。
「今日の日替わりは何だろう」
「赤耳鳥の照り焼きと目玉焼きだよ。【生産都市】から今日運搬されたから油の乗った良い肉だ。とっとと喰え」
言われるまでも無く、ウルは目の前の肉にフォークを突きたてた。厚切りの肉から肉汁が流れ、皮の上に乗ったタレと混じる。ウルに赤耳鳥が高い肉のなのか安い肉なのかはよく分からない。だが肉は肉で美味しい肉だ。ウルはその旨みを口の中で噛みしめた。
「うまい」
「語彙がねえなあ」
そう言いつつ、店主は嬉しそうだった。美味いものを腹一杯になるまで食べられるようになったのは、冒険者になってからの数少ないメリットの一つだった。
アカネにも食べさせてやりたいなあ。彼女はジュースになるが。
と、そんなことを思っていると、近づいてくる者達がいた。男の冒険者達が複数でぞろぞろと、彼らは眼の前においるウル――は、さっくりと無視して、その隣に座りウルと同じように肉をニコニコと食べるシズクへと近づいていった。そして、
「シズクさん!ご機嫌麗しゅう!今日もお美しいですね!!」
「ありがとうございます。ガイさんに褒められるとうれしいでございますね」
「シズク!君に似合う華を摘んできたんだ。どうか受け取ってくれないか!」
「まあ、ダンジさん。ありがとうございます。とっても素敵なお花ですね」
「シズクさん!今度俺達のパーティと一緒に潜りませんか?!」
「ごめんなさい」
「振られた!!」
次々に男がシズクの前にやってきては、適当に彼女にあしらわれている。
いつもの光景である。
いつもの光景になってしまった。
シズクは優秀な魔術師であるが。正確には極めて優秀な“素養”を持った魔術師だ。魔術の技能は素晴らしいが「初心者にしては」という注釈がつく。
まだまだ彼女は白亜の冒険者である。今彼女に声をかけてる連中はだいたいが銅の指輪は既に保有している、そこそこに熟達した冒険者達ばかりだ。彼女を勧誘したところで、彼女をつれて迷宮探索には向かえないだろう。純粋に一行のバランスが悪くなるからだ。
しかし彼女への勧誘を男達がやめないのは何故か。
最初彼女の容姿につられて声をかけてきた男達を、彼女が片っ端から骨抜きにしたからである。
「皆さん優しくしてくださって、私はとっても幸運です」
あまりに目立ちすぎるシズクの容姿にまず惹かれて彼らは声をかけ、そして彼女の冒険者らしからぬおしとやかな仕草と態度、誰に対しても分け隔て無く優しく接する態度に絆され、魅了される。店の男達はすっかり、彼女に夢中になっていた。
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