アオのハコ#87 SideB
懐かしい夢を見た、そんな気がした。
でも目を醒ますとすぐにその残滓は朝の光に熔けていき、曖昧にぼやけてしまう。それをなんとか繋ぎ止めようと目を閉じ、思い描く。
かつての親友の姿を、そしてその決別の時を。
ああ、未練がましいな。私が悪い、きっとそうなのに。何がどう悪かったのかさえ、気付くことが出来なかった。何処かで私が対処していれば、こうならずに済んだかもしれないのに。
『どうでも良いよ、昔からユメカユメカって。――嫌いだった』
その言葉は、いつもの悪口雑言とは違っていて。そこにはきっと、あの子の本心があった。
私はバスケを始めた頃からずっとユメカに憧れていた、何よりも目指すべき目標だった。立ち塞がる全てを薙ぎ払う嵐のような彼女と一緒にいれば、いつだって敵はない。どんな困難にも立ち向かえる、そう信じていた。
でもいつのまにか私は、ユメカに鬱陶しがられていたんだ。一緒のチームにいたくない、同じ学校にさえいたくないと思わせるくらいに。
そこまで追い込んでしまった私に、悔やむ資格なんかあるものか。
「あ、……起きなきゃ。朝練、行かないと」
過去はもう、置いていこう。そう決意し開いた瞳には、眩い朝陽が降り注いでいた。
ウインターカップを前にして、練習はますます苛烈になっていく。
私たちはまだまだ油断も慢心も出来る立場じゃない、少しでも怖じ気付けば地の果てまで後ずさる事になる。だからこそ、全ての技術を骨の髄まで叩き込むんだ。目で見て頭で考えていたら反応が遅れる、気配で感じて無意識のまま動けるようにならなければ。
私たちは天才じゃない、必死で食らい付いて行くしか手はない。とは言え相手のリズムに呑まれてしまえば勝ち目は無くなる、そこが私たちの弱さだから。
余計なことを考える余裕なんか無いのに、朝の夢を引き摺ってかついつい考えてしまう。
ここにユメカがいてくれたら、と。
全く、どうしようもないな私は。こんな事だから愛想を尽かされるんだ、そうやって人を頼ってばかりいるからダメなんだ。チーム競技だからって、いつもいつも。
ユメカを失って自分を省みた気でいたけど、今も私は弱いまま。大喜くんに寄り掛かってしまうのも、そのせいだった。……今はその理由も変わりつつあるけど、さ。
だんだんと私は、大喜くんの隣にいること自体を楽しみだしている。お互いを支え合える間柄でいたい、とまで思ってしまう。余りに都合のいい話ではあるけど。
この先大喜くんがユメカみたいに、私を嫌いになるかもしれない。一年と少し後、猪股家を去る段階で「ずっと嫌いだった」と言われてしまうかもしれない。そう思っても尚、私は変われずにいる。
だからこそ、今の気持ちに名前を付けるのが怖い。気になっているだけ、と自分を騙して目を背けて来た。
我ながら情けないな、本当に。何もかも中途半端なまま、必死で頑張るフリをして必死で逃げ続けている。
こんな私が大喜くんを、……好きになっても良いんだろうか。
大喜くんと練習の合間にちょっと笑いあって、それでも気持ちは晴れてくれない。
形の上でエースエース言われても、所詮は凡才だ。チーム自体はともかく私自身になんて、大した価値はない。これで大学にいける訳でなし、プロになれる訳でなし。上には上がいて、死に物狂いで駆け上がったところで一度の敗北がすべてを台無しにする。
ユメカくらいに上手ければ、頂点で居続けられるのだろうか。いや、それさえ叶わないのかもしれない。現にユメカは、バスケそのものを捨ててしまった。
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