星の灯火を絶やさずに
すっかり太陽の沈んだ夜中。
準備していたものを持って、入院で鈍った体を動かしつつ深夜のアビドス高校へと足を向ける。
そこには予想通り、懐中電灯を持ったホシノちゃんが見回りをしていた。
「...誰〜?」
「や、ホシノちゃん。」
毎日。夜になると彼女はここの見回りをする。昼にいつも眠そうにしているのはこのためだ。
「な〜んだ、シルベちゃんか。おじさんビックリしちゃったよ。」
正直言ってターゲットが学校なのだから、生徒が帰宅した後の学校を狙えばいともたやすく占領できるだろう。
そうなっていないのは...ひとえに彼女の努力の成果だ。
「どうしたの?病み上がりなのにこんな時間に外なんか歩いちゃってさ。まあおじさんが言えたことじゃないか〜。」
「もう歩くだけなら全然問題ないからね。はい、肉まんの差し入れです。良ければどう?」
「お〜、いいねぇ。」
二人でベンチに座り、しばらく黙々と肉まんを頬張る。
アビドスの空。人の少ないこの町の星空は、寂しく、美しく、瞬いている。
「ね、シルベちゃんは怒らないの?」
「ん?」
「そんな夜遅く出歩いてるから昼間に眠くなるんだって、セリカちゃんにバレたら怒られそうでおじさん恐ろしいよ〜。」
ホシノちゃんは冗談混じりにそう呟く。
「うーん、まあ私としてもあんまり夜更かしはして欲しくないけど...」
「......」
「でも、これはホシノちゃんがやらなきゃって思ってるんでしょ?」
「それは...」
実際それをやめさせたところで、何か代案が出せる訳じゃない。
砂に埋もれていくアビドス高校。生徒が減り、住民が減り、ユメ先輩が居なくなったこの学校。
それでもホシノちゃんがこの学校を守ろうとするのは...強い意志なのか、逃れられない呪いなのか。
どちらにせよ、それをよくも知らない人に止められるなんて、いい気分じゃない。それがたとえ、自分より人生経験のある先生だったとしても...生徒は反発するものじゃないかな。
「だから...はい!私は、お昼寝の方を応援しようかな。」
「...?これは...ネックピローだ〜!貰っちゃっていいの〜?」
良さげなネックピローに、刺繍でイルカの形を縫ってある。6番の覆面と一緒に作成したものだ。
ゲームではクラフトチェンバー製のものしか贈れなかったが、転生した今では...お手製のものをプレゼントすることができる。
彼女の手を引くことができないなら、せめて彼女が向かう先で倒れないよう、できるだけ支えてあげたいと思う。
「...やりたいこと、やらなきゃって思うことがあるんだったら...やろうよ。学生のうちはさ。」
「やりたいこと...そんなこと言われたの、おじさん初めてだよ〜。」
彼女は笑う。その内情を窺い知ることは、できない。
「やりたいことと言えばさ、シルベちゃんはどうしてシャーレをやろうと思ったの?」
「ん?えーっと...」
この間ヒナちゃんにも聞かれた質問だ。まあ一年生が急に連邦生徒会の新設部活動に一人で入部してたら、誰でも気になっちゃうよね。
シャーレに入った理由..正直、成り行きがどうこう言っていられる状況はとっくに過ぎていると思う。それに...キヴォトスに来た直後には忘れていた『前の私』の記憶も、段々と思い出せるようになってきた。
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