ハーメルン
太陽系制圧演習記録
タイタン地上戦

2163年6月12日 タイタン高高度 



地球特化軌道海兵隊、通称ブルーチームの有翼降下艇に山野勇二等兵はいた。
山野はただひたすら緊張と使命感の重みに耐えていた。ただ純粋にとても重く、しかも全方位からくる重みに耐えていた。それは他の隊員たちにも言えた。ひたすら耐えているのである。しかしそんな彼らを許さないかのように降下艇は大きく揺れ始めた。
揺れるたびに、揺れは不安感となって心だけではなく、身体をも蝕んでいった。長きに耐えこのまま腐ろうとしていた時、救いの手、もとい声がかかった。しかし皆わかっていた。それが新たな地獄の始まりであると。
腐りつつある空気を消し飛ばすかのごとくマット・コルト大尉は声を上げた。
「お前ら!任務の時間だ!」その声の威圧は凄まじく船内にはびこっていた腐れを吹き飛ばす勢いであり、意気消沈としていた隊員たちの目を覚まさせた。「俺たちの任務は着陸地点チャーリーより10キロメートル先にある敵拠点の制圧だ!そろそろ着陸するぞ。全員!準備はいいか!?」「「ウーラー!!」」マット・コルト大尉と隊員たちが叫ぶ。「そろそろ着陸する、揺れに備えてくれ」パイロットが船内に放送を流す。山野の緊張は更に高ぶる。(初めての演習だ、、、くじくわけにはいかない!)山野は決心する。その時だった、船体が激しく揺れた、着陸したのだ。それと同時に降下用のハッチが開く、コルト大尉は声を上げる「よし、全員行くぞ!遅れるなよ」隊員たちはコルト大尉を先頭に敵拠点へ走って行った。タイタンの大気が戦闘用宇宙服越しに伝わる、とても冷たいのが感じられた。
戦闘用宇宙服は防弾と生命維持以外の部分は結構簡略化されている。なぜなら全て充実させようとなると、その分かさばるからだ。圧迫式宇宙服の量産により「動きやすさ」の問題はある程度解決されたがそれでも宇宙服は動きにくいものだ。だからこそ機能を最低限にしても、着心地が悪くなっても、特に軍用宇宙服は「動きやすさ」を注力しているのである。
タイタンの寒さに耐えながら行軍していると早速先に降下していたブラボーチーム、スカウトチームから通信が入った。「こちらブラボーチーム、早速だが敵が道中に防衛拠点を構築し始めている、真っ直ぐ行くのは危険かもしれない、だが、迂回するのも時間が足りないおそれがある、オーバー」それに対しコルト大尉が返事をする「感謝するブラボーチーム。危険は承知のうえで強行突破を試みる、オーバー」しばらくして、スカウトチームから返信があった「それなら近場に岩場があったはずだ、一旦そこに身を隠すといいだろう。スカウトアウト」コルト大尉が皆に呼びかける。「よし聞いたな、敵防衛拠点の5キロ手前で匍匐前進をするぞ、ただし時間はかけられない、急いで移動するんだわかったな?」皆は無言だがコルト大尉は隊員の目で判断した(異論は、、、なさそうだな)。こうして部隊は敵防衛拠点の5キロ手前まで行き匍匐前進を開始した。

匍匐前進も素早いものだった。なにせ軌道海兵隊であるそこらの歩兵とは経験が違う。(ここを突破すればあとは安全だ)山野はそう考えた。あと少しで岩場、そこについたら突破する方法をゆっくり隊長と考えよう。そう思ったときだった。突然だった、風切り音が聞こえたのだ。山野はそれが演習用とは言え弾丸であると気づくのに数秒かかった。
「チクショウ!、、、見つかった!仲間が撃たれた!」叫んだのは川島矢島二等兵だった。
「全員急いで岩場に向かえ!走っても構わん!」コルト大尉が叫ぶ。

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