序章「誕生と祝福」Bless my child's wickedness
■ ■
ある片田舎の貴族の家に生まれたその男は、剣を振るう事が出来るようになってからは黙々と剣を振るい続けた。
ただ、力が欲しかった。それだけを理由に、剣を振るった。
理由は、全く分からない。
何故、自分が強くなりたいのか。
何故、力を求めてしまうのか。
どれだけ考えても、どれだけ自問しても、どれだけ悩んでも、納得のいく解答は全く出揃わない。
その瞬間すら、考えている時間すら、自問している時間すら、悩んでいる時間すらも惜しいと感じてしまう程に、割り切ってしまう程に、とにかく男は力を欲し続けた。
力が欲しい。それだけを、ただそれのみを糧に、男は剣を振るった。
最初の障害は父親だった。剣ばかり振るうのではなく、勉強もしなければならない、と。
男は言った。「言葉ではなく、力で屈服させろ」と。
父親は剣を握り、息子と対峙した。相対してしまった。
結果? 言うまでもなく、息子である男の圧勝だった。
男には容赦など一切としてなく、勝負が始まった瞬間に颯爽と駆け抜けて父親の首を切り落とさん勢いで、木剣を首目掛けて振るったのだ。
知識よりも力。筆よりも剣。男は、理由など結局分からないまま、前のようにただ只管に剣を振るう事となった。
次の障害は、血の繋がった妹だった。
いつの間にか産まれ、そしていつの間にか共に剣を振るっていた妹が、男にとっては邪魔なものだった。
その妹は、よく兄である男へと突っかかって来た。剣を持って、勝負を仕掛けてきた。
どれだけ踏み潰そうと、どれだけ叩き折ろうと、どれだけ斬り伏せようと、しかし妹は諦めず挑んできた。
妹が強かったならば、男も障害とは認めなかった。だが、妹は男よりも弱かった。
自分よりも弱い者が、幾度も幾度も立ち向かってくる。強者にとって、それ程までに退屈なことは無い。
それ故に―――遂に男は、真の意味で実の妹を斬った。血の繋がった家族を、血の繋がりごと斬り捨てた。
男は家から追放され、そして自由を手に入れた。誰に縛られる訳でもない、本当の自由を、だ。
男は力を求め、剣という武具のみを持って各地を彷徨った。
旅の過程で盗賊を斬り伏せ、魔物を斬り捨て、尚も男は満足せず、力を求め続けた。
ある時、男はディアボロス教団と呼ばれる集団と接触し、こんな誘い文句を聞いた。
『魔人ディアボロスの力があれば、望みへと近付く』と。
男は、その誘いに乗って自らの体を差し出した。新たな力を手に入れることが出来るならば、と。
結果、男は苦痛と苦悶、激痛と地獄を味わった。何なら、軽く死にかけすらした。
だが―――その途中で、声を聞いた。
『power...』
『More power...!』
『A power that surpasses even gods!』
誰の声なのか、などということは分からない。だが、その声が自分と同じく、力を求める者の声である事は明白だった。
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