第二話「悪魔憑き」
■ ■
あの聖域から離れて、数ヶ月。
男は、あの聖域での出来事を終えた後も、変わることなく力を求めて放浪としていた。
「…」
だが、男は放浪しながらも考えていた。
力を求めていた自分。今も尚、力を求める自分。その在り方を、男は考えていた。
何故、自分は力を求めてしまうのか。何故、生まれてきた時から力を求めていたのか。
思えば、剣を振るっていた理由らしい理由が、見付からない。
力を手に入れたいという渇望はあるが、それと同時に何故、自分が力を求めているのか、という疑問も、男は抱いていたのだ。
「…なんだ、これは。」
そんな、ある時の事だった。
歩きながら考え耽っていた男の足から、ぐじゅ…という肉肉しい音がした。
男は視線を足元へと落とし、その音の主を目視する。
それは、見るも悍ましい、グロテスクな肉塊だった。
どくん、どくん…と鼓動を打つように弱々しく動いている醜い肉塊。
普通ならば無視するか、その場で斬り刻むのだが、しかし男はそうはしなかった。
それは何故か?
「…生きているな。」
その肉塊が、生きているからだ。
肉塊となりながらも、しかし肉塊は、否、肉塊となった人物は生きていたのだ。
男は座り込み、その肉塊へと手を伸ばし、遠慮なく肉塊へと触れる。
腐った肉と血によって作られたその皮膚の感触は、はっきり言って最悪だ。
途端、男の掌にまるで波に打たれているかのような感覚が伝わってきた。
「これは、魔力の波か…? こんな肉塊に、波を立てる程の大きな魔力が籠もっているというのか」
それは、魔力の波。
この世界において、ほぼ全ての生物に宿っている概念――『魔力』。
だが、魔力が波を引き起こしているという事は、魔力の暴走を意味する。
しかし、魔力が暴走するなどという事は少なく、それこそ身に余る程の魔力を持っていない限りはそんなことは起きない。
だが、眼の前の肉塊からは、魔力の波が立っている。つまり、それが何を意味するのか。
即ち、魔力の波が立ってしまう程の、強大な魔力を有しているということに他ならない。
「…」
男は暫し考え、そして結論を出した。
「丁度良い。実験台になってもらおう。」
この肉塊で魔力制御の実験、練習を行うと。
男は閻魔刀を地面に突き刺し、左腕で肉塊を抱え上げ、空いている右手で地面に突き刺した閻魔刀を引き抜いて、縦に振るい、横に薙いで十字形の次元の裂け目を創り出した。
刀身を鞘へと戻し、右手で閻魔刀を掴み、地面から引き抜いて、男は肉塊と共に次元の中へと消えて行った。
男が住んでいるのは、廃村だった。
悪魔憑きという病によって、女の殆どが死んだことにより繁栄が出来なくなってしまったが故に捨てられ、廃れてしまった小さな村だ。
まだ月日が経っていないのか、ボロボロという訳ではなく、掃除をすれば普通に暮らせる程度のものだったからか、それとも気に入ったからなのか、男は其処に住んでいた。
「幻影剣」
村の真ん中、広場となる所。
其処に立っていた男は、肉塊の横で実験をしていた。
『魔力の物質化』―――自分から離れた魔力を物質化させ、尚且つ制御して敵へと当てるという攻撃方法の確立。
常日頃から剣を振り続けていたが故に、魔力制御なぞ素人同然にしか使いこなせない男にとって、それは無理難題にも等しいものだった。
[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/4
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク