ロホルトは折れない。才気ある小姓から従騎士までの若手をターゲットに絞り、子飼いの騎士として忠誠心を植え付けて、王家の近衛騎士団として結成する案が最初から頓挫しても。
折れない。折れることが出来ない。まだ間に合う、まだやれると思ってしまう。なぜなら彼は特別な血筋なのだ、特別な才覚と英雄の素質を具えた卵なのだ。ブリテン人で最も高貴な母と、ブリテン最高の英雄であるアーサー王の血は、ロホルトに不屈さを与えていた。
分析する。今回の失敗は――国の未来の為に必要なことでも、国民が無条件に協力するわけではない。ましてや高い権力や武力を持つ者が、自らそれを手放すことは極めて稀なのだという現実を知らなかったことに原因がある。アグラヴェインと反省会を開いてそうした結論を導き出した時、アグラヴェインは心の中で人という生き物を侮蔑し、ロホルトはあからさまに嘆息した。
(オレならブリテン王国の王子なんて地位、欲しがる人がいたらくれてやりたいのにな)
(……なんという暗愚。この身の想定を遥かに下回る愚劣さだ)
アグラヴェインは人間が嫌いだ。幼少期から淫蕩な実母に刷り込まれた嫌悪感が、冷徹な鉄人である彼の心に毒を持たせる。故にこそアーサー王やロホルト王子の高潔さ、優秀さが相対的に更に美しく見えてしまうのだ。この御方達だけは違うと、彼は思う。
「アグラヴェイン卿、私は諦めないぞ」
決然として光を纏う王子は、闇そのものの母と正反対。彼はまだ知らないだろう、ロホルト王子を指して国の民、騎士達が『ブリテンの光』などと称していることを。その英邁さに希望を持ち、若手を中心に強力な求心力を発揮しはじめていることを、まだ。
不屈の闘志は溢れ出るカリスマ性だ。
アーサー王のそれが透徹とした王気だとするなら、ロホルトのそれは後を追い掛けたくなる炎の王気。アグラヴェインは忠義心を新たに、彼への助力を惜しまないことを確約した。
「私の名に於いて、『ごっこ遊び』の体で従騎士までの若手を登用する。前の計画ほど大々的にはやれないし、大人数を集めるのは無理だろう。人を従える苦労を今の内から経験しておく為とでも言っておけば、私の年齢からして外野も邪魔はできまい。もし邪魔する者がいたら堂々と嘲ってやる、ガキの遊びに余計な茶々を入れる気か、とね」
「少数精鋭ですか。……まるで円卓ですな」
「はは。円卓? 私が目障りと断じたものの二番煎じか……いいね、この計画は円卓ごっことでも称してしまおう。それで、物は相談なんだが……貴公はこれはと思う者はいるか?」
ロホルトに問われ、アグラヴェインはザッと覚えにある従騎士や小姓達の顔と名を思い浮かべた。
これはと思う者は少ない。だが、いる。現時点で二人は確実に、後々には円卓の座に上り詰めるであろう才人が。アグラヴェインは一切の私情なく、件の二名を推挙する。
「まずは二人、身内贔屓と取られても構いませんが――」
「身内贔屓? 貴公に限ってそれはないだろう」
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