ロホルトは折れない。折れてもいい資格を自ら捨てた。
彼の名は、ステファン。
純粋で、正義感が強く、情に厚い、心根の真っ直ぐな少年だった。
ステファンとはすぐに仲良くなれた。容易く心を開いてくれた。だからガヘリスに連れられて来た彼と話して、青年会の仲間に加えた時、ロホルトは堪らず笑いそうになりながら思った。
思い通りに動かせる理想的な駒が来た、ガヘリスは素晴らしい人選をしてくれたようだ、と。自らの策が上手くいくと確信し、後は自分がやるべきことをやるだけだと高を括ったのだ。
本当に簡単だった。歯応えがなさすぎて、本当に上手くいくのか逆に不安になるほどに。
ロホルトは彼を含めた青年会の皆に、いつも通りの事をいつも通りにしただけだ。毎日青年会の会合を開いていたわけではないから、噺の種はまだまだ尽きることはない。仮に噺の種がなくなっても、培ったノウハウがあれば新たに噺を作ることも出来る。
皆の心はロホルトに向いていて、皆で国の未来を想って成すべきことを談義するのは楽しくて、熱意は翳らずに、若々しい情熱が連帯感を強めた。いつものことをいつものようにしていただけで――機が熟すと、囁やいた。それだけで、面白いようにステファンはロホルトの狙い通りに動いてくれた。事が成ったのを知った時、ロホルトは腹を抱えて笑い転げてしまうぐらい完璧に。
「ァハハハ、ああああははははははは!」
馬鹿だ! 馬鹿だ! 馬鹿が! 馬鹿野郎が! なんでそんなことをしたんだ、なんで自分の主を殺したんだ! そんなことをしたらお前が死ぬだろう、死んだらもう会えないんだぞ! もう話せないし国の為に仲間の為に戦うことも遊ぶことも笑うことも出来ない! なのになんでそんなことをした! なんでだ! アハハハハハ! 本当にやってくれた! 助かった! よくやった!
「殿下ッ」
肩を痛いほど強く掴まれる。振り払って見ると、ガヘリスがいた。
「笑ってはなりません」
……は?
「殿下が囁き、私が唆したのです。彼は――英雄です。英雄の死を笑ってはなりません」
………。
…………笑う?
オレが……笑っていた?
はは……。
「……すまない、少し一人になりたい」
「駄目です。殿下、貴方は逃げて楽になろうとしている。楽しくなろうとしている。他者を駒に見立て思うがまま操り、人を数字で、世界を盤面に見立てようとしている。それが楽だからだ」
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