11話:貴族令嬢
次に、よく喋るようになった。愚痴ばかりだけど、会話に飢えていたのだろう。私以外の修道士とも会話をしているのを見かける。
そして、妊娠のせいか、かなりふくよかになった。これはこれで可愛らしいと思う。
また、態度も柔らかくなり、私により懐いてくるようになってきた。
おそらく、交友関係に恵まれない生活を送っていたのだろう、そこで間違いを冒した。
今やその心配も皆無と言ってよいかもしれない。のだが……。
「お姉様!」
「お、お姉様!? ど、どうしたのよ急に、私はあなたの姉じゃないんだけど」
「いいじゃないですか!私にとってはお姉様です!」
「ま、まあいいけど……」
まさか私のことを慕ってくるとは思わなかった。しかもお姉様呼びなんて……正直恥ずかしいからやめてほしい。
そんなやりとりもありつつ、私達は穏やかな日々を過ごしていったのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
数ヶ月を経て、彼女は無事に出産した。元気な男の子であった。
「おめでとう、ザスキア」
「ありがとうございます、お姉様」
彼女は嬉しそうに答えた。修道院全体が祝福ムードに包まれる中、一人の訪問者がやってきた。
それは王太子、元王太子だった。彼は彼女に謝罪をしにきたという。
だが、ザスキアは彼を追い返すように言った。当然だろう。そもそも彼女がここに来たのは、彼の不倫が原因なのだから。
しかし、その後も度々彼がやってくるようになった。その度に追い返しているのだが、諦めの悪い男だ。
ある日、遂に彼は強引に面会を申し込んできた。さすがにこれ以上拒否し続けるのは難しいと考えたのか、ザスキアは渋々受け入れたようだ。
私と院長も同席することになった。一体どんな話をするのだろうか?
「やあ、久しぶりだね、ザスキア」
「……お久しぶりですわね、殿下」
二人は睨み合うように対面していた。お互いに思うところがあるのだろう。
「その節は本当にすまなかったと思っているんだ。僕はどうかしていた。反省している」
「……」
沈黙が流れる。
「それでだ、産んだ子供なんだが……」
「ああ、やっぱり。子供が、王家の血が目当てなのね」
「いや、違うんだ!ただ純粋に君と子供に会いたいだけなんだ!」
「嘘おっしゃい。どうせ子供だけ引き取って私を追い出すつもりなんでしょう?」
「そんなことしないさ!本当だ!!」
どうやら王太子は本気で子供にも会うつもりで来たらしい。ただ、ザスキアの方はそれを信用できないようだった。
「信じられるわけないでしょう、子供が生まれるまで便りすら寄越さなかったあなたなんかを」
「うっ……」
痛いところを突かれて元王太子は何も言えなくなった。
ザスキアの言う通りだ。仮に本気で会いたいと思っていたとしても、手紙の一つぐらい出すべきだろう。
「とにかくだ、今日は君に会いに来たんだ。子供はこちらで育てるよ」
「信じられないわ。それに、その子だって私の子よ」
「院長には話をつけてある」
「!?」
い、院長!?まさか金で裏切ったのか!?あり得る。
「今日のところはお引取りください、ザスキアは必ず送り届けます」
「わかった、頼んだぞ」
こうして元王太子は帰っていった。
「院長!!」
「まあ、待て、アーデルヘイト。待て!グーはやめろ!ちゃんと訳がある!」
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