ハーメルン
龍教団物語
2話:おばけの正体


「アーデルヘイト審問官、ちょっと頼まれてくれ」
突然修道士の一人に話しかけられていた。これから惰眠を貪る事で忙しいというのに。
「どうせ暇だろ」
なんて言い草だ!暇だけど。彼はバルトロ修道士。茶色い長髪の面倒見の良い美男子である。
彼の頼み事なら断れないだろう。
「はいはい、何ですか?雑用ですか?」
「まあそんなところだ。宿坊で夜遅くにおばけが出るという苦情が何件も入っているんだ。見回りに行ってきてくれ」
おばけ?そんなものいるわけがない。夜遅くまで起きている不届き者が適当なことを言っているだけだろう。
「自分で調べればいい」
「……その、な、わかるだろ?」
「……怖いの?」
「怖い!」
大の大人が情けない、と言いたいところだが、信心深い人はこういった心霊現象を恐れるものである。
それにウィプスなどの魔物が迷い込んできているのであれば一大事だ。
「わかったわ、行けばいいんでしょ行けば」
私は渋々了承した。

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

そして今は真夜中、私は一人で暗い廊下を歩いている。ランタンと両手剣を携えて。
なぜ一人かというと、他の修道士たちは怖がって誰もついてきてくれなかったからだ。みんな薄情だ!
それにしても本当におばけが出たとして、一体どうしろというのか。魔物や人であればともかく霊と戦う手段は持ち合わせていない。
「そもそもなんで私がこんなことを……」
ブツブツ言いながらも進んでいく。すると前方に人影が見えた。
あれは……修道服!? こんな時間に人が……? 近づいてみるとそれは少女だった。
彼女はこちらに気付くと声をかけてきた。
「あ、こんばんは~」
どうやらおばけではない……っぽいようである。
「こんな夜中に何をしているの、というか、あなたは誰?」
桃色の髪色をした少女は笑顔で答える。
「私は愛のドラゴン、クピド!あなた達が信じる龍の神の一柱……と言っても信じてはもらえないかもしれないけど」
確かに信じられない話だ。神を名乗るとはよほど頭がおかしいのだろう。しかし嘘を言っているようには見えないし、何よりこの少女の纏う雰囲気には不思議と惹きつけられるものがある。
「あなたの話は分かったわ。それで修道院に何か用かしら」
「いや、開いてたから入っただけ」
神というのは気まぐれだろうから、まあ、そんな理由であっても不思議ではない。
「ふふん、まだ私のこと疑っているでしょ?」
「それはもちろん」
野良ドラゴンやならず者ドラゴンなら結構その辺を飛んでいたりするが、こういう神として崇められているドラゴンは目撃者は殆どいない。
いても虚言か単なる噂話で済まされてしまうため、その存在を信じる者は少なかった。
とはいえ目の前の少女が仮に本物だとしても、やはりいきなり信じられるものではない。
「証明しようにも手段がないなぁ、私が中庭でこの汚え醜い人間の姿から元のドラゴンの姿に戻ったら信じる?」
なんか言葉に棘があるけど、ある程度は信じられるだろう。
「それじゃあ、中庭に行きましょう」
私たちは中庭に出た。
「じゃあ行くよ~。戻れ戻れ!」
彼女が叫ぶと同時に彼女の体が光に包まれる。
そしてその光が収まった時、そこには巨大な赤いドラゴンがいた。
大きさは大体15メートルくらいだろうか。翼を広げればもっと大きく見えるかもしれない。

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