幕間:修道院の一日
「この間のダンジョンで結構儲かったから寄進してきたわ」
「やるねぇやるねぇ」
か、固く禁止されているのに……。
昼食はお弁当が支給される。この日は黒パンに買い付けた燻製肉とチーズを挟んだものだった。
オリーブオイルもかけられており、人気メニューの一つである。
「毎日これ食べたいねー」「ねー」
食事に関する規律は全く存在しない。せいぜい食い逃げを禁じているぐらいだ。
クピド派がガバガバぬるま湯不信心集団と言われる所以の一つである。
冠婚葬祭があれば、現地に赴き儀式を執り行う。
結婚式では証人として、両者の誓いの言葉を聞く。
なお、クピド派は一夫一妻制で離婚は出来ない。これは奔放な人々には嫌がられている。
「永遠の愛を誓い、それに背かない事を誓いますか?」
「誓います」「誓います」
「まず、朝起きたら接吻を、仕事に出る前に接吻を、そして夕方に家に戻れば接吻、寝る前に接吻することを誓いますか?」
「誓いま……そんな細かいところまで誓わなくちゃいけないんですか!?」
ハズレの修道士だとこんな事になってしまう。
葬儀にも死者への祈りの言葉を捧げに行く。
「天と地の龍よ、今ここに永遠の眠りについた者を、どうかそっとしておいてください。安らかな眠りを妨げないでください」
定期的に墓所に赴き、振り香炉を炊き祈りを捧げる。
死者がアンデット化しないよう、御霊の怨恨と未練を慰めてあの世へ逝く事を促す意味がある。
墓荒らしによるアンデット化を防ぐが、一定の効果しかないため油断は禁物だ。
「天に在す神龍よ、願わくばえーっと……なんだったっけな……」
「ぐしゃあああああ!!志半ばで斃れし者じゃああああ!!」
「ひぃぃ!死者が蘇った!!神龍よお助けぇ!!」
祈りが下手だと途中で蘇った死者に説教されることになる。説教だけならまだ良い方だが。
そのためこの行事は心が強い者が行う場合が多い。
日が落ちてくれば修道院に戻り夕食の時間だ。
夕食は朝よりも豪華だ。黒パンと野菜の煮込みに加えて、ベーコンや腸詰め肉、焼き魚が出ることもある。
これをナイフで切って手掴みで食べる。香草と塩がほのかに効いていて美味しい。
黒パンはスープに浸して食べるのがよい。あまりにもかってえからだ。
夕食が終わればあとは就寝前のお祈りである。一日を終えた事を神龍に報告する。
「天に在す我らが神龍クピドよ、無事一日を終えられたことに感謝いたします。
我らと我らを支えてくれた者たちに安らかな憩いをお与えください。
夜に蠢く不届き者たちから我らをお守りください。
あなたを悲しませた言葉や行いをしたのなら、どうかお許しください。
我らが幸福にある時にも不幸にあえぐ者たちがいるといことを、どうか忘れさせないでください」
修道士たちの宿坊には個室が用意されているのでプライベートは保たれる。
寝るまで思い思いの時間を過ごす修道士も多い。
恋愛は不貞さえなければ特に禁じられていないので逢瀬を楽しむ者も中にはいる。不貞行為をした瞬間破門なので緊張感がある。
多くの修道士は本を読んだり日記や手紙を書いたり、集まって噂話をしたりに留めている。
しかしながら、蝋燭も安いものではないため、経理担当の修道士にマジギレされたくないのであれば、夜更かしには要注意だ。
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