8話:貴族家の騒動
三人は私とリリを見つけると、ニヤついた顔のまま近寄ってきた。
「よぉ姉ちゃんたちぃ、俺らになんか用かい?」
黙ってると、執事の一人が息子を窘め始める。
「坊ちゃま、お父上のお客様ですよ」
「ああ?んなこと知るかよ。こいつらはこれから俺たちと一緒に遊ぶんだろうが」
「しかしですね……」
「うるせぇぞジジイ!!」
そう怒鳴りつけると、彼はリリの方を見てニタリと笑った。
彼女はビクリと肩を震わせる。
「おいお前、ちょっと来いよ」
「ひっ……」
「おっと待ちなさい。その子は私の連れだよ」
怯えるリリを庇うようにして前に出る。
「なんだてめえは」
「見ての通り愛の龍の信徒よ」
「はっ、愛の龍だぁ?いい身体してるじゃねえか、愛撫させてくれよ」
彼は私の胸を鷲掴みにする。そして下卑た笑い声をあげた。ああ、汚らわしい、しかし我慢が肝心だ。
「女の扱いを知らないと見える」
「あ?」
「下手くそだって言ってるの」
「な……こ……このアマァッ!!!」
顔を真っ赤にして殴りかかってくるが、所詮貴族のおぼっちゃま。大振りで隙だらけ。
ひょいと避けて顎に思い切り拳を叩き込む。
「げっ!」
「クピドよ、愛の鞭を振るうことをお許しください」
綺麗に入りすぎて拳が痛い、手をブンブン振りながら懺悔の言葉を呟く。
どら息子は白目を剥き、その場に倒れ伏した。
「お見事な『説教』で、私も胸がスッとしました」
「はは、どうも」
執事に褒められるが、全く嬉しくはない。
「リリ、もう大丈夫だからね」
「あ、ありがとうございますぅ~」
リリは半べそかきながら私にしがみついてきた。可愛い子である。
悪友二人はバツが悪くなったのか、逃げ出そうと踵を返す。
「どこへ行く!」
しかし屋敷の警備員に地面に取り押さえられてしまう。
私は彼らに近づき話しかけた。
「愛情深きクピドの名の下に正直に罪を告白なさい」
「……」
彼らは俯いたまま答えようとしないので、顔面を蹴り上げた。
「ぐへっ!?」
「クピドよ、愛の鞭を振るうことをお許しください。さて、もう一度言います。愛情深きクピドの名の下に正直に罪を告白なさい」
「こ、こんなん暴力じゃねぇか!聖職者が、おかしいだろ!」
もう一度蹴りを入れる。
「ぐがっ!!」
「クピドよ、お許しください。それで、愛情深きクピドに…」
「は、話します!話しますから!」
「よろしい」
ようやく素直になったようだ。しかしなんだか恐怖の入り混じった視線を感じる。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
森で女性を襲った、というのは未遂で終わったらしい。まあ襲ったことには変わりがない。
他にも窃盗や食い逃げ、恐喝など悪行三昧の小悪党だったようで、やはりこの三人は悔い改める必要がある。
「衛兵に突き出すのが早くないかな……」
「やむを得ないとも、考えております」
正直めんどくさいのである。しかしながら、意外にもリリは前向きに考えていた。
「我が修道院でお預かりは出来ませんかね」
「えー……」
「そんな顔をしてはいけませんよ、審問官。愛は誰であっても注がれるべきです。失礼ながら、こちらのお三方には愛が足りなかった」
いつものオドオドした様子とは打って変わって、熱心に説く。
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