ハーメルン
ナンバー1ヒーローの娘になった、悪の組織の改人系ヒロインのヒーローアカデミア
15 事件後

「くそっ!! くそぉ!!」

 黒霧のワープで拠点に帰った後も、死柄木は喚き散らし、ガリガリと首筋を掻きむしっていた。
 その様子を見て、拠点に設置されたモニターの向こう側から声がする。

『ああ、弔。可哀想に。よほど腹に据えかねているんだね』
「当たり前だ!! 先生、あれはなんだ!? なんなんだ、あのチートのクソガキは!? オールマイトより強かった!! 脳無が二体も瞬殺された!!」
『そうだね。僕の言った通り、とても厄介な子だったろう?』
「あそこまでとは聞いてない!!」

 ガリガリ、ガリガリと、血が出るほどに首筋を掻きむしりながら死柄木は喚く。
 まるで子供の癇癪。
 見た目は二十歳ほどだというのに、彼の精神は年齢不相応なほどに幼かった。

 だが、今の彼はこれで良い。
 モニターの向こう側にいる男は、内心でそう呟いて笑う。
 今は何よりも、己でも制御できないほどのヒーローへの強い強い『憎しみ』を絶やさないことこそが重要。
 憎しみを効率良く力に変える方法は、これからゆっくり教えてあげればいい。
 ……とはいえ。

『君の言うことももっともだ。僕もまさか、あの子がそれほど成長しているとは思わなかった。
 ハイエンド一歩手前の脳無三体は、目的に対して少し過剰だったかなとさえ思っていたんだけどね』

 今回の目的はオールマイトの削りと、ヴィラン連合という組織のお披露。
 おまけでオールマイトと死柄木弔の接点を作ること。
 後者二つの目的は遂げたが、死柄木が喚いている間に行われた黒霧の報告を聞く限り、オールマイトの削りは殆ど達成できていない。

(さすがは僕らの最高傑作(最凶の失敗作)。もう下手な後続じゃ歯が立たないか)

 戦闘においては、弱ったオールマイトよりもよほど厄介。
 つくづく11年前の計算ミスが悔やまれる。
 あれさえ無ければ、彼女は今頃、頼れる最強の味方だったろうに。
 男の後ろでは、誰よりもその思いの強い老人が『ぬぅぅ! もったいない! 実にもったいないことをしてしまったぁ!』と騒いでいる。
 11年経った今でも、悔やんでも悔やみ切れないのだろう。
 何せ、彼女が残してくれた研究データだけでも、脳無を始めとした研究が大きく進み、今回だってあのレベルの脳無を一度に三体も用意できたのだ。
 本人が残ってくれていたのなら、得られたはずの恩恵は計り知れない。

『でも、大丈夫。君はいつか必ずあの子を超えられる』

 最高傑作とは言ったが、それは現時点での話だ。
 どこまで行っても、あれは試作品。
 完成品には勝てない。
 そして、彼女に欠けていた『憎悪』という最も重要なピースを持ち、いつの日か完成品に至りうる器こそが、死柄木弔なのだ。

『前を向こう、弔。精鋭を集めよう。じっくり時間をかけて攻略していこう。正義(ヒーロー)は勝たなきゃいけないけど、(僕ら)は何度負けたってやり直せるんだ』

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