第十五節
カール・ロベルト・シュタインメッツは士官学校卒業後、早くから有能さと勇敢さにおいて非凡と評されるだけの功績を示していた。
だが、不運な事に配属先の上官のことごとくが傲慢極まりない貴族出身者であり、剛直かつ清廉な気質にして平民出身のシュタインメッツは、彼らとしばしば衝突せざるを得なかった。「三〇歳近くまで、あまり上官には恵まれなかった」というのは後年における本人の弁である。
その結果、シュタインメッツは任官してわずか一年ほどで辺境星区への転属を命じられる。辺境への赴任期間は一応は三年と定められていたが、軍上層部に疎まれ辺境を転々としたまま軍歴を終える者も数多かった。彼もその例に漏れず、辺境各地をたらい回しにされる事となるのである。
そのような境遇の中でもシュタインメッツは腐る事なく経験と実績を積み重ね、兵士たちや平民ないし下級貴族出身の同僚や部下から絶大の信頼を寄せられる存在として、着実に軍人としての評価を高めていった。
そのシュタインメッツに転機が訪れたのは、辺境に赴任して九年、三〇歳を迎える旧帝国暦四八六年の事である。
この年、第三次ティアマト会戦での勝利によって帝国軍大将に昇進した一九歳のラインハルト・フォン・ミューゼルに、大将への礼遇の一環として個人の旗艦たる新造戦艦ブリュンヒルトが与えられた。
当初ラインハルトは腹心たるジークフリード・キルヒアイス中佐をその艦長に据える事も考慮したが、キルヒアイスが冗談めかして自分の忠誠心がブリュンヒルトに優先的に向けられてよいのならばと語ると、半ば本気で慌てつつ断念したものである。
戦艦の艦長は中佐ないし大佐をもってその任に宛てる事が軍規で定められていたが、その要件とラインハルトの人物鑑定眼に耐えうる能力を兼ね備えた人材は、なかなかに見い出せなかった。心当たりのある人物は、別の任地にあってそこから異動させる事が不可能であったり、実績は充分ながら階級が低かったり、逆にすでに将官に昇進していたりと、ことごとく候補者リストから外さざるを得なかったのである。
そのようないささか苛立たしい心境の中で、ラインハルトは知己であり、辺境に赴任していたウルリッヒ・ケスラー准将と超光速通信で会話を交わす機会を得た。久々の会話の中で、ラインハルトは件の人事について現状を述べた後、
「卿がまだ大佐だったならば、任地から呼び戻して旗艦の艦長になってもらいたかったところだ」
とこぼし、ケスラーを軽く苦笑させたものであった。そして、ケスラーは不意に何かを思い出したかのように笑みを収め、ラインハルトに辺境で知己を得た一人の人物を推挙したのである。
その人物こそがカール・ロベルト・シュタインメッツ大佐であり、長年にわたり辺境勤務に従事していた彼は、新任地に慣れぬケスラーに何かと助言してくれた存在でもあった。才幹も為人も充分に信頼に値するとケスラーは太鼓判を押し、同時に彼が任期を終え、形式上の手続きなどを行なうために間もなく帝都に一時帰還する事もラインハルトに伝えたのである。
通信を終えたラインハルトはすぐさまキルヒアイスと共にシュタインメッツの経歴について調べ上げ、ほどなく得られた情報はことごとくケスラーの推薦を裏付けるものであった。
[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/9
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク