ハーメルン
実況パワフルプロ野球恋恋アナザー&レ・リーグアナザー
第一三話 "七月二週" 春達の道程

                 七月二週


 第四市営球場。
 午前練習が終わり、燦燦と降りしきる太陽の中、俺と彩乃、そして何故か付いてきた早川の三人で俺達は球場に入る。
 聖タチバナvsあかつき大付属高校。下馬評ではあかつき大付属がコールド近い点差で勝つと予想されていたその試合だが――球場内に入って俺達が見た物は、七回まで〇を重ねる両軍のスコアだった。

「……凄い……みずき達、あかつき大付属といい勝負をしてるよ!」
「そうですわね。わたくしも最近猪狩様が物凄いお方だと気づいたんですが、その猪狩様のチームとここまで対等に渡り合っているなんて……」

 早川と彩乃が揃って感嘆の声を漏らすが、俺はそれに答えれずバックスクリーンを睨みつけた。
 確かに七回裏、先攻はあかつき大付属の攻撃で、あかつき大付属を〇点に押さえてはいるが、内容が全く違う。

 それは即ち――ヒット数。

 猪狩はここまで被安打はなし、七回裏の時点で一番の原が打席に立っているということは、ランナーを一人も許していない、即ちパーフェクトでここまできているということだ。
 対して聖タチバナの先発であろう橘が許した被安打は九――つまり三者凡退で終わった回が此処まで殆ど無いということだ。
 ピンチこそ抑えているが、その投球内容は非常に危うい。何かの拍子に一気に崩れる事だって考えられる。
 そう考えている間にも、あっという間に原、二番の大月の二人が三振。六道が内野フライに打ち取られて七回の裏が終了する。
 八回の攻防に入る試合。マウンドにあがるのはまだまだ橘だ。
 スタミナはすでに切れかけているだろう。それでも腕をふるって、あかつき大付属のバッター、一番の左の八嶋に対し、外角の凄い所に投げ込んでいる。
 だが、それでも抑えきれない。八嶋は外角のボールを逆らわずにライトへと弾き返す。
 続くに番の六本木はしっかりと送ってワンアウト二塁。ここらへんのソツの無さ――これがあかつき大実業の強みだろう。
 このピンチで打順は三、四番と続く。ここを抑えきれずに一アウト一三塁になればスクイズも含めて警戒しなければならなくなり、抑えるのが難しくなる。
 三番七井に対する初球。
 選択したのは緩いスクリュー。
 初球から七井は振っていく。ッキィンッ! と甲高い音が響いて打球はセンターへ抜けるかという当たり――その打球を、春が横っ飛びでキャッチした。

「わあっ!」

 思わず隣で早川が声を上げる。
 八嶋は慌ててセカンドベースに戻って行く。
 それを許すまじ、と春は素早くセカンドへ送球。――ダブルプレーにした。これでチェンジ。
 凄いファインプレーだ。あれがセンターに抜けてたら八嶋の足ならアウト二つがなくなったどころか完全にホームインしていただろう。

「……レベルアップしてるな」
「うん、そうだね」

 聖タチバナの面々の守備が格段に上手くなってる。守備に一つでもミスがあったなら、それに漬け込んであかつき大付属はとっくに先制点を奪っていただろう。
 それを許さなかった聖タチバナの守備力は恐らくあかつき大付属の面々も感心しているほど素晴らしいモノだ。
 だが、それでも試合は動かない。

 一人目の春はストレートを三つ振らされ、二人目の大京はスライダーを打たされファーストファウルフライ、三人目の篠塚は外角低めのストレートを見逃し三振。

[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/6

[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク
携帯アクセス解析