ハーメルン
黄金船の長い旅路 或いは 悲劇を幸せにしたい少女の頑張り 【改訂版】
2 芦毛の美少女と芦毛の美女と

 黒塗りの高級車から降りてきたメジロマックイーンは、そのまましずしずと優雅にレッドカーペットを歩き始め……

「へぶっ!?」

 すぐに開ききっていないレッドカーペットに脚を取られ転び、そのままゴールドシップの胸へと飛び込んできた。

 周囲は困惑した。
 黒塗りの高級車。
 突然敷かれたレッドカーペット。
 そのレッドカーペットを途中で止めた、無茶苦茶美人な見慣れない芦毛のウマ娘トレーナー。
 途中で止まったレッドカーペットを意にも介さず進み、その美人ウマ娘に激突した美少女ウマ娘。

 誰が見ても何が起きているか全くわからない状況である。
 周りは意味が分からな過ぎて一歩引いた。
 ぶつかられた芦毛の美人ウマ娘ゴールドシップも訳が分からなかった。
 ゴールドシップの豊満な胸部に突っ込んでふがふが言っているメジロマックイーンも訳が分からなかった。

 ひとまずマックイーンに声をかけるべきだろう。
 ゴールドシップはできるだけ優しく声を掛けようとして……

「どこに目つけてんだよ」
「ひっ」

 思いっきり失敗した。



 こんな発言をゴールドシップがしたのはいくつか理由がある。
 まず、ゴールドシップは若干人見知りの気があるのだ。明るくて破天荒な性格に反して、初対面の相手はあまり得意ではなかった。
 さらに、精神的に余裕が全くないのもある。
 まず金銭的余裕がまるでない564円で1か月どうにかしろとか単純な無茶ぶりである。歯ブラシすら買えないのだ。基本貧しい生活をしてきたと言っても限度があった。
 さらに、目的のメジロマックイーンにこんな不規則遭遇をしたのだから、表には出していないがゴールドシップはかなり混乱していた。
 単純にパニくっていたのだ。

 だから、前を見て歩けという単なる注意をしようとしただけだったはずなのに、無駄に喧嘩腰になってしまった。
 こういう時にいつもフォローしてくれるジャスタウェイも隣にいない。
 鞄に入っている黄金ジャスタウェイは何も答えてくれなかった。

 遠巻きに見ていた新入生たちは、さらに一歩後ろに下がった。
 片や、すさまじく美人だがガタイが良く威圧感たっぷりなウマ娘トレーナー。
 片や、ヤのつく自営業の方が乗ってそうな黒塗りの高級車から降りてきて、レッドカーペットをバクシンした美少女ウマ娘。
 そんな、普通に近寄りがたい二人が険悪な雰囲気を醸し出しているのだ。
 誰だって逃げ出したくなる。

 ゴールドシップも逃げたくなっていた。
 なので逃げることにした。

 ひとまず胸に埋もれているマックイーンを抱き上げると、足元で丸まっているレッドカーペットを蹴り飛ばす。
 くるくると元のロール状に戻るレッドカーペット。

「なんですの!? なんですの!?」
「じゃあなとっつあん!!」

 そのままゴールドシップはマックイーンを抱えてその場から逃走した。
 これは逃走ではない。戦略的転進なのだ。
 誰への言い訳かわからない言い訳を心の中でしながら、ゴールドシップはその場から逃げるのであった。

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