ハーメルン
与えられた能力は女性を綺麗にする力でした
第二話

「……よし、じゃあいきますよ、と。準備はいいですか?」

 立ち上がった俺は、魔法を発動させる為に手の平がアリーに向かうように片腕を伸ばす。アリーは、そんな俺の動作にびくつきながらも覚悟を決めたように「――は、はい」と答える。目を力強くぎゅっと閉じているあたり、相当怖いらしい。

「あの、そこまで怖がらなくても」
「……う、うぅ」
「……あー、ちなみに、どこを綺麗にしてほしいかは希望はありますか?」
「……ど、どこでも」

 だめだこりゃ……。
 アリーは相変わらず小動物のようにプルプルと震えている。
 そこまで俺、怪しく見えるのか……、まあ見えるか……。
 ここは実際に魔法を使って見せるしかないか。地味にショックを受けつつも魔法を失敗しないように意識を切り替えて集中していく。意外にも魔法を使用するには集中力がいるのだ。自分が何をしたいのかを具体的に脳内でイメージする必要がある。俺は一度練習で魔法を使っているが、その時も使用できるまでに結構時間がかかったものだ。

 本当は、100G、一回でどこか一部分だけに魔法を使おうと思っていたけど……。

 アリーの後方に視線を移すと、アリーと同じ年位の女子四人が、馬鹿にしたようにアリーを見ているのが分かった。それを確認し、俺は突き出した腕に力を込める。 

 ……ま、お客様第一号だし、髪と顔の肌の両方を綺麗にするか。サービスだ。 

 空腹でフラフラの中、瞳を閉じて懸命に意識を集中する。
 そして――。
 手の平が輝き出し、徐々に輝きを増していき、アリーを包み込んでいく。

 ――よし、なんとか一発で成功した。

 そんな感想を心で漏らすと同時に、一気に全身に倦怠感が押し寄せてきた。思わず片膝をついてしまう。

 ……し、しんど。魔法を使うって体力いるんだな……。

 例えるなら全力疾走をした直後のような感覚。魔法使いは体力が無いイメージがあったが、案外そうでもないのかもしれない。
 
「――えっ? え、え?」

 魔法による光が収まりつつある中、俺が息を切らしていると、アリーの驚いたような声が聞こえてくる。重い頭を上げて、視線をアリーの方に向ける。そこで俺は思わず息を吞んだ。



 美少女が――そこにいた。



 腰まで流れたサラサラの真っ黒な髪に陽の光が反射しキラキラと輝く様はまるで宝石のよう。その小さな顔には先ほどまであったシミや出来物が無くなり、キメ細かい肌がアリーの美しさを形作っていた。ボロボロの服装は変わらないが、寧ろそれが芸術性を醸し出しており、幻想さを生み出していた。
 姉が、女性にとって美容は重要なことだと言っていた記憶が蘇る。ここまで変わるとは思わなかった。この光景を見てしまうと姉の言葉に納得せざるを得ない。同時に俺の魔法の偉大さを感じる。

「え、な、なにが――こ、これが――私?」

 アリーがサラサラになった自分の髪を触ったり、自分の顔をぺたぺたと触り、自分が大変身したことに気付き始めたらしい。鏡でもあれば良かったのだろうが、そんな気の利いたものはここには無い。
 アリーは中々落ち着きを取り戻さないが、これが現実だと認識し始めたのか、徐々にその顔に笑顔が浮かんでくる。それを見て俺も素直に嬉しいと感じてくる。

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