第2話 予期せぬ訪問者
この日も深層にて男はモンスターを狩り続けていた。
「やっぱり蜘蛛の糸は生活に必須だな。最近は服のほつれが多いんだよな」
いつもの独り言を呟きながら一面蜘蛛糸だらけになった道を進む。
その先に転がっているのは青い体液をこぼして痙攣する蜘蛛。念のためと止めのため剣を振るい足を削ぎ落す。
もはや機動力を奪われた蜘蛛は身を捻ることしかできない。ただ体液を流すしかなく、男はその間に蜘蛛糸を持参していた棒に糸を巻き付けていた。
深層で現れる蜘蛛形モンスターは総じて毒を持っている。青い血の成分にダンジョン発生時には存在しなかった物質が含まれており、徹底的に対策をしなければあっという間に命を持っていかれてしまう。
そんな体液が飛び散り流れ出ているのに男は全く気にしていない。それどころか衣服や肌に一滴も青い体液は付いていない。
「いい加減、この毒の成分を解析したいところだが…………やっぱり謎のエネルギーの解析が最優先か。魔力ってなんだよ、どこから湧いて出てきたんだよそのエネルギー」
どこかで聞いたような言葉を呟きながら男は蜘蛛糸を棒にめいいっぱい集めて満足したのか、蜘蛛を放置して歩き出していった。
今日もモンスターを適度に狩って資源を集める、その筈だった。
「ん?人の声がした?」
不思議と視界は通るが迷路のように曲がりくねった道の先に男は目を向ける。
その先には何もいないように見えて、男の耳には誰かが恐怖する声が聞こえた。
「ちょっと行ってみるか」
深層に来る人間は滅多にいない。人に偽装しているモンスターはいるが感情の籠った声を出すことは無い。なお、この機微の差は長く深層にいるこの男にしか分からない。
男は糸が巻き付いた棒を鞄の中へ仕舞って駆け出す。
その速度は周囲で様子を伺っていたモンスターの眼にすら留まらず、横へ抜けられたことすら気づいていない。
そして──────────
「ど、どうしてこうなっちゃったんだろうね」
:トラップ?
:ここが深層ってマジ?
:終わった…
:詰みです
:誰か助けに行けないのか!?
:未踏破の箇所には進むなって言われてたのに
:絶対に踏んだらいけない罠トップ3のやつ踏む?
この場でスマートフォンらしき端末に声をかけ、そこに映し出されるコメントを眺めることしかできない少女が居た。
彼女の名は坂神あかね。ダンジョンで生配信し、人気を集めることで金銭を稼ぐことが出来る特殊な人間である。
ダンジョンで軽快なトークで場を盛り上げつつモンスターを狩っていき、その素材や投げ銭で新たな装備、もとい衣装を購入作成し、また新たなトークで人々を楽しませるアイドルの一種と言っていいだろう。
ダンジョンが出現し大災害を起こしてから現在に至るまでの技術の発展はダンジョンから生産される素材による恩恵であった。
そうでなければ地下深くに電波が届く訳が無い。
ダンジョンの資源により地下深く、ダンジョン内でも通信ができるようになった現代、老若男女が端末を片手に持ち自身の力を誇示し、あるいはエンタメを求めてダンジョンへ潜っていった。
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