ハーメルン
祭りの夕日を緋纏う二人
祭りの夕日を緋纏う二人


冬の西日が眩しく照り付ける楽屋の一室、ウイニングライブ会場に付設された12畳くらいの部屋でダイワスカーレットは踊っていた。曲を口ずさみ緩やかな動作でダンスの振り付け確認を行う彼女は、本位ではない二着用の振り付けを一つ一つ確認していたが、すぐにゆるゆると首を横に振り、部屋の隅に雑に置いてあった丸椅子へ腰を下ろした。

先程の有馬記念でベストを尽くしたものの2着に敗れた悔しさ、エリザベス女王杯の後にスイープトウショウと約束した有馬記念を勝つという目標を達成できなかった申し訳なさ、そして今日の有馬記念で感じたとある違和感に対するモヤモヤなど、色々な感情が渦巻く中でライブへ感情を切り替えるのは容易なことでは無い。それでも自分が1番であるためやるべきことをしよう、と立ち上がった時、ドアをノックする音がした。

「スカーレット、入ってもいい?」

続けざまに声が聞こえる。聴き慣れたその声の主に
「大丈夫よ」と答えると、ドアがゆっくり開いた。

「ひょっとして邪魔しちゃったかな?」

机の上に置かれたダンスの振り付けが書かれた紙を見て、遠慮がちに聞かれた。
「アタシは大丈夫よ。それよりお姉ちゃんの方はどうなのよ」

「いらない心配だったね。私は去年も同じ振り付けだったし問題ないさ。」
「そんなこと言ってると本番で間違えて引退を失敗で終えることになるわよ?」

「ははっ、スカーレットには適わないね。」

すぐに会話が弾んだのは長年一緒に過ごしてきたが故の信頼によるものだろう。部屋に入ってきた彼女の名はダイワメジャー。ダイワスカーレットの姉であり、先程引退レースの有馬記念で3着に敗れ、妹との最初で最後の対決で敗北を喫してきたところであった。

「ところで、」
少し緩んだ空気の中、メジャーが声を発する。
「今日のレースはどうだった?」

「アタシは今の全力を出し切れたわ。でもゴッホさんが最後に伸びてきた時、アタシの脚は届かなかった。スイープ先輩と有馬記念を勝つっていう約束をしたのにそれは果たせなかったし後で怒られちゃいそうね。」

「ゴッホは凄かったね。スカーレットには見えなかっただろうけど最後のコーナーでぐんぐん加速していくときは昔見たルドルフ先輩の有馬記念を思い出したよ。中山だと一段階強さが上に感じるね。」

「引退レースなのに随分あっさりしてるわね。もう少しなんかないの?」

「ははっ、負けちゃったものはしょうがない。後悔はないさ。」

「本当に?」
その一言で急に空気が締まる。
「本当に、後悔はない?」
繰り返すように問いかける。

「どうしてそんなことを聞くんだい?顔が怖いぞスカーレット。」

「顔が怖いは余計よ。ってそんなことが言いたいんじゃないわ。ちょっと気になったのよ。」

「なんだい?」

「今日のレースで先頭に立った時、後ろに凄い気配が2つあったの。ひとつは勝ったゴッホさんので、もうひとつはお姉ちゃんのだった。だけど最後の最後でお姉ちゃんの気配が急に弱まった。」
「やっぱり中山の2500mは長かったからね。横にいたウオッカちゃんも最後はしんどそうだったよ。マイルも2500mもできるオグリ先輩は凄かったと改めて思うな。」

「今日のお姉ちゃんはすごく調子が良さそうだった。何度もレース前のお姉ちゃんを見てきたけど今まででいちばんキラキラしてて、私と戦うためにここまで仕上げてきてくれたのかと思うとすごく嬉しかった。ウオッカもサムソン先輩もいたけど、それでも私に追いつけるのはお姉ちゃんだけだと思った。」

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